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「帝国ホテル・ライト館」を設計した、近代建築の三大巨匠 フランク・ロイド・ライトが日本に残した4つの建築。

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おでかけ 建築 歴史

2023/06/02

「帝国ホテル・ライト館」を設計した、近代建築の三大巨匠 フランク・ロイド・ライトが日本に残した4つの建築。

アメリカの建築家、フランク・ロイド・ライト。ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエとともに「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる、世界的に著名な建築家です。建築好きな人に、ライトを知らない人はいないのではないでしょうか。

そんな偉大なる巨匠 フランク・ロイド・ライトは、アメリカを中心に数多くの建築作品を世に残しています。中には世界遺産として登録されているものも。そして、アメリカ以外では唯一ここ日本にもライトが築き上げた建築が残されているのです。

そこで今回は、フランク・ロイド・ライトが手掛けた、日本国内に現存する4つの建築をご紹介します。

 

ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)

兵庫県芦屋市の緑に囲まれた自然豊かな丘の上にある「ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)」。1918(大正7)年に、灘五郷の造り酒屋・櫻正宗の八代目当主山邑太左衛門の別邸としてフランク・ロイド・ライトによって設計されました。

建築当初の姿をほぼ完全に残しているライトの住宅建築は、日本ではここヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)のみ。その評価は高く、1974年には大正時代以降の鉄筋コンクリート造の住宅建築として初めて国の重要文化財に指定されました。また現在は、世界遺産の追加登録候補にも挙げられているのだとか。

そんなヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)の建築には、ライトが提唱し続けた「有機的建築」自然と建築の融合を目指すという建築思想がたくさん詰まっています。

入口アプローチ

ライトの作風は、住宅への入口アプローチから始まっています。敷地に入るとすぐに玄関があるのではなく、敷地内の長い導入路をたどりながら右手にある住宅を観賞して玄関に辿り着くようにデザインされています。

車寄せ

左右対称のシンメトリーなデザインがいかにもライトらしい車寄せには、幾何学模様が彫刻された大谷石が装飾されています。でこぼことした質感や大谷石の色合いが、迫力はありながらもどこかやわらかさや安らぎを感じます。

2階応接室

2階にある応接室は、これこそがライトの建築!と思うほどの見事なデザイン。長椅子や照明、柱に棚など細部にまでこだわりが垣間見えます。

また、応接室北側には暖炉があります。ライトは暖炉にも強い思い入れがあり、「建物自体のどっしりした石積みの奥で、赤々と燃える炎を見つめるのは心安まるものである」とも言っていたのだとか。

西側廊下

3階に上がるとそこには長い廊下が。大きなガラスの窓には、植物がモチーフとなった飾り銅板が施されています。

ずらりと並ぶ窓から差し込むあたたかな日差しが影をつくるその様は、ライトが描く芸術そのものです。

3階 和室

3階には和室があります。西洋風な外観の建物に、このような立派な和室があることに驚き!実はこの和室、ライトの設計には無かったものの、施主の強い要望でつくられた部屋なのだそう。

ここにも廊下と同じように、飾り銅板がところどころにデザインされていますね。

4階 食堂

4階にある食堂は、天井まで施された木枠のデザインが印象的。ここにも応接室と同じく暖炉があり、部屋全体が暖炉を中心にシンメトリーに装飾されています。

天井部分は四角錘のような形になっており、三角の小窓からたくさんの光が差し込む設計がなんともユニークなデザイン。

バルコニー

4階にはバルコニーがあり、食堂の南側から外へ出ることができます。バルコニーから建物を見てみると、また違った形で建築の魅力を楽しむことができます。六甲の山並みや市街地、大阪湾までもが一望できる絶景も堪能できますよ。

ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)は、ライトがつくり出した建築思想を実際に中へ入って感じることのできる、貴重なスポットです。一般の見学も可能(入館料あり)なので、ぜひみなさんも一度足を運んでみてくださいね。

 

自由学園明日館

東京都豊島区の西池袋に所在する「自由学園明日館」。1997年に国の重要文化財として指定された、歴史ある建物です。

1922年頃の食堂の様子

現在の食堂

自由学園明日館の歴史は深く、創立されたのは大正10(1921)年。羽仁もと子・吉一夫妻によって女学校として建てられました。

この建設に携わったのが、フランク・ロイド・ライト。羽仁夫妻の教育理念に共鳴したライトは、夫妻の「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」という想いを基調とし、自由学園を設計しました。

東教室棟の廊下 水平に長く伸びていくデザイン

自由学園明日館の設計には、ライト初期の作品に多く見られた「プレイリースタイル」が用いられています。

「プレイリースタイル」とは、建物が地面と水平に伸び広がる設計手法のことで、フランク・ロイド・ライトが確立したスタイルとして知られています。深いひさしや屋根を低く抑えるなど水平ラインを強調したデザインが特徴的で、建物が外の空間と一体化し自然に溶けこむ、自然との融合が美しい建築スタイルです。

ホールには、ライトの作風を感じる幾何学模様の大きな窓が

ライトの代表的な作風として、幾何学模様のデザインが頭に浮かぶ人も多いのでは。

建物の設計だけに限らず、空間を彩るインテリアや家具にもこだわりを持っていたライト。特にライトが手がける照明や窓には、今見ても斬新かつ真新しく感じるような個性豊かな幾何学模様のデザインがたくさん!

窓ひとつにしても、さまざまなデザインがあって見ているだけで楽しくなりますよね。ライトらしさを、いろいろな形・場所で感じられます。ここから差し込む日差しがまた、建物内の空間をよりノスタルジックに演出します。

トップライト

通路の天井にある幾何学模様の天窓には、2ヶ所に対称的な照明が付いています。窓から差し込む木漏れ日と照明の灯り、ふたつの異なるあたたかな光が見事に融合し建物の中を灯す、そんな繊細かつ上品な美しさを感じるデザインです。

食堂の照明

玄関ランタンボックス

空間を彩るのに欠かせないインテリアのひとつ、照明。ライトがつくる照明は、左右のバランスやシルエット、色合いなど、その独特なデザインは見る人を飽きさせません。

ホールにある暖炉

ホール内には、立派な暖炉があります。「火のあるところに人が集まり団欒し、安らぎの場を共有するのだ。」と考えるライト。ライトが手がける建築には多くの暖炉がつくられており、なんと自由学園明日館の中には5つもの暖炉があるのだとか。

夜景で楽しむ、自由学園明日館

夜になれば、このように素敵な姿に変身を遂げます。建物から放たれる光、そしてその影が芝生に映り、それはまさにアートのよう。建築家ライトならではの、建物と自然が一体化した姿を堪能することができます。

自由学園明日館は「使いながら保存する文化財」として、一般の見学はもちろん、結婚式やコンサート会場などのイベントにも利用されています。ぜひみなさんも、近くに訪れた際には、ライトの手がけた歴史ある文化財をその目で確かめに行ってみるのはいかがでしょうか。

 

旧林愛作邸

東京都世田谷区にある旧林愛作邸。フランク・ロイド・ライトは、旧知であった帝国ホテル初の日本人支配人 林愛作の住宅の設計をしました。ライトが日本滞在中に完成した建築は、4つの中でも唯一ここだけ。

旧林愛作邸は、ライトが表現する「プレイリースタイル」を感じられる建築です。屋根裏を失くし、建物の高さを全体的に低くしているのもその特徴のひとつ。

 

帝国ホテル中央玄関(博物館 明治村)

最後にご紹介するのは、博物館 明治村にある「帝国ホテル中央玄関」です。フランク・ロイド・ライトの建築といえば「帝国ホテル・ライト館」が頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。

1923(大正12)年に、4年間もの大工事を経て2代目として開業した帝国ホテル・ライト館。ライトが日本で初めてホテルの建築を手がけたことでも有名で、ライトの代表作とも言われています。”東洋の宝石”と称される帝国ホテルのデザインは、まさに造形美。

現在は、博物館 明治村に中央玄関部分が移築保存されています。

設計するにあたりライトがインスピレーションを受けたのが、京都にある「平等院鳳凰堂」。水平性、深い軒、左右対称のデザインを見ると「平等院鳳凰堂」がモチーフとなっていることに納得ができます。

まずは外観から、建築全体の洗礼されたデザインを楽しみつつ、ライトの独特な世界観を体感。主要な建材は愛知県常滑市で焼かれた黄色い煉瓦とテラコッタ、栃木県宇都宮市で採掘された大谷石。ライトが描いた精緻で独創的なデザインと、日本の職人たちの高い技術により制作された建材により重厚な印象を受けます。

メインロビーの中央は3階まで吹き抜けになっていて、低めのエントランスで閉鎖的だった空間から一気に開放的な空間へと導かれます。また、中央玄関内すべての空間がこの吹き抜け部分を囲うようなデザインになっており、階を重ねるごとに変化していく景色を楽しむことができます。

室内は窓を多く取り入れられており、部屋ごとに区切る壁が少ないことから、空間が開放的で流動的になっています。室内空間だけでなく、屋外に向かっても開放的であることは、襖や障子を開け放って壁や仕切りを無くすことのできる日本の木造建築にも通ずるところがあり、外観の重厚さとは対照的に開放的な印象を受けます。

この吹き抜け部分は、訪れる人の心までもを開放してくれるライトならではの設計です。

帝国ホテルに多く使用されているのが、大谷石とスダレ煉瓦。柱や壁には、幾何学模様が彫刻された大谷石や透かしテラコッタが装飾されており、威容な存在感を放っています。

光の籠柱

吹き抜けの「光の籠柱」と大谷石の柱は、まさに圧巻!そのディティールは、見る人を圧倒させます。柱の中には照明が取り付けられており、照明のやわらかな光が大きな空間を優しく包み込みます。また外からの自然光と相まって、その美しさは格別なものに。

照明はもちろん、軒先の銅の庇に施された細かい装飾や窓に使用されたステンドガラスなどにより、外光が細かく分散して室内に入るなど、自然光の扱いにもこだわりがあったライト。光がどのように差し込み、どのように空間を演出するのかを計算して設計していたのですね。

ライトは帝国ホテルの建築以外にも、ここで使用される家具や照明、食器などのデザインも手がけています。

「家具の形状は、全体の中で意図され、かつ楽しまなければいけない。」というライトの言葉の通り、機能性に加えて、空間全体に馴染む質感や表情のある家具を提唱しました。

ピーコックチェア

ライトが手がけた「ピーコックチェア」と呼ばれる6角形の椅子。座る人が最も美しく見えるようにデザインされているのだそう。幾何学模様のシンプルなデザインで、一目みてライトらしさを感じますよね。

こちらは、ライトがデザインした食器を復刻したもの。赤や黄色など色鮮やかで可愛らしいデザインは、今見ても心ときめく作品です。

帝国ホテル中央玄関は、建物だけでなく、家具や照明、食器などさまざまな部分でライトが細部にまでこだわり尽くした建築物です。ぜひみなさんも、ライトが手がけるここにしかない独特な空間を体感しに、博物館明治村を訪れてみてはいかがでしょうか。

 

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・帝国ホテルにて、ライト館開業100周年記念企画
「The Wright IMPERIAL; A Century and Beyond」が開催中

https://www.meijimura.com/meiji-note/post/wright-imperial-a-century-and-beyond/

 

・帝国ホテルにて「ライト館 100周年アニバーサリークッキーⅡ」が販売中!

https://www.meijimura.com/meiji-note/post/anniversary-cookie2-imperial-hotel/

INFORMATION

ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)

所在地

〒659-0096 兵庫県芦屋市山手町3-10

営業時間

0797-38-1720

駐車場

あり(乗用車7台、中型バス2台)

公式サイトURL

https://www.yodoko-geihinkan.jp/

自由学園明日館

所在地

〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-31-3

電話番号

03-3971-7535

駐車場

なし

公式サイトURL

https://jiyu.jp/

旧林愛作邸

所在地

〒154-0012 東京都世田谷区駒沢1丁目1−30

帝国ホテル中央玄関(博物館 明治村内)

所在地

犬山市字内山1(博物館 明治村内)

公式サイトURL

https://www.meijimura.com/sight/%e5%b8%9d%e5%9b%bd%e3%83%9b%e3%83%86%e3%83%ab%e4%b8%ad%e5%a4%ae%e7%8e%84%e9%96%a2/

Writer

山村 咲木

記者

ライター山村 咲木

愛知県・名古屋市出身。大学ではメディアプロデュースコースを専攻し、広告やデザインについて学びました。卒業後は一般企業に就職。その傍らで、ライターとして活動中。おいしいものに目がなく、グルメな記事を中心に執筆活動を行なっています。趣味は、イラストを描くこと、喫茶店巡りをすること、映画・ドラマ鑑賞、フラワーアレンジメントなど。料理をすることも好きで、休日には手料理を家族や友人に振る舞っています。