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熱い想いとともに忠実に復刻!明治時代に誕生した「カブトビール」と製造工場「半田赤レンガ建物」

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2023/01/04

熱い想いとともに忠実に復刻!明治時代に誕生した「カブトビール」と製造工場「半田赤レンガ建物」

ふるかわ かずみ

記者

ライターふるかわ かずみ

みなさん、ビールはお好きですか?

ビールといえば、サッポロ、エビス、アサヒ、キリン……と現在は大手ビールメーカーが並びますが、明治時代にはそこに肩を並べるほどの半田市生まれのビールがあったのはご存じでしょうか。

今回はそんなビールづくりに情熱をかけて奮闘した人たちと、半田市で誕生した「カブトビール」、そしてその製造工場だった「半田赤レンガ建物」の歴史をご紹介します。

また取り壊しの危機にありながらも保存活動に尽力し、当時のビールも忠実に復刻させた有志の人たちの熱い想いと、これからの展望もお聞きしてきました。

 

カブトビールが誕生するまで

前身の「丸三(まるさん)ビール」からスタート

愛知県半田市は、江戸時代から酒蔵を中心に醸造業が盛んで、100軒前後の酒蔵がありました。それが明治時代に入ると、国の政策で酒蔵への増税がはじまり、体力のない酒蔵は一気に減っていきます。

江戸から明治にかわった時代には西洋文化も入ってきて、国も欧米諸国に追いつけ・追い越せのムード。国の新しい基幹産業として、ビールという新しい飲み物への期待も高まっていました。

そんな中、ミツカンの中埜家の4代目の中埜又左衛門(なかのまたざえもん)が甥の盛田善平(もりたぜんぺい)とともに、明治20年にビールづくりに着手。それがカブトビールの前身の「丸三ビール」です。

そうした時代背景もあり、当時ビール業界に挑戦する企業や起業家も多くいました。ただ、技術や設備不足などの理由でほとんどが挫折する中、丸三ビールは盛田善平の巧みな広報戦略もあり、順調に販売本数を伸ばし、明治22年には3,000本を出荷するほどに成長。

当時の旧名古屋駅前に設置された、カブトビール vs サッポロ・エビス・アサヒビールの2大広告塔

 

その頃、すでに国内で市場を占めていたサッポロ、エビス、アサヒ、キリンの4大ビールメーカーに対抗するため、丸三ビールは明治31年にドイツから機械技師と醸造技師を呼び寄せ、赤レンガ建物を建設。本格的にドイツビールの製造とともに、それに伴い銘柄も「丸三ビール」から「カブトビール」に改めます。

その後社名も「加富登麦酒株式会社」として改めるなど、そのまま順調に進むと思われましたが、無情にも時代は戦争まっただ中。ビール業界も国の政策に振り回されます。カブトビールも大手3社との合併や、資本の譲渡などを経ていきます。

そして政府の方針で昭和18年、赤レンガ建物は中島飛行機製作所という戦闘機をつくる工場の倉庫として使われることとなり、やむなくカブトビールの生産は終了してしまいます。

もし、生産をそのまま続けることができていたら、現在は今の大手ビールに名を連ねていたかもしれませんね。

 

ビールづくりに最適だった製造工場「赤レンガ建物」

赤レンガ建物はそういった背景から、中埜又左衛門、盛田善平、そして地元の有力な資本家たちの財力と熱い想いによって、本場ドイツからビールづくりに必要な機械や人のみならず、建物まで取り入れて建てられたものでした。

では具体的にどのような構造&特徴があるのでしょうか。

 

建物は日本にあわせた自主設計によるもの

赤レンガ建物は、明治の建築界の三巨匠のひとり「妻木頼黄(つまきよりなか)」により設計されたもの。そのほか横浜の赤レンガ倉庫や日本橋なども彼によるものです。

ドイツから原図を取り寄せたものの、レンガのサイズが日本と合わなかったため、サイズを変更し自主設計でアレンジしてつくったのだそう。

<北側玄関に展示してある複壁> 中間に空気層がある構造。

 

<火に強い耐火床と天井>

 

また、工法も彼独自のものを取り入れ、耐火や耐震設計をはじめ、中空構造や多重アーチといった技法を取り入れたのも特徴。これは魔法瓶の構造と似ていて、壁や天井を多重につくり空間をつくることで(中空構造)、外からの熱をさえぎって、建物内の温度を一定に保つ効果があります。

そのため、醸造したビールを3ヶ月長期・低温熟成するのに常に0℃を保つ必要性があった貯蔵に、とても適した構造だったようです。

そんなビール醸造工場としてこれだけの大規模な赤レンガ建物はとても貴重で、現存する建物としては非常にめずらしく、全国でもここくらいだそう。

2004年(平成16年)に国の登録有形文化財として登録され、2009年(平成21年)には近代化産業遺産に指定されています。

 

そのほかの建物の特徴とみどころ

木とレンガのコラボ構造「ハーフティンバー」

こちらの棟の建物の外観の特徴として、木とレンガの組み合わせにお気づきだと思います。これは「ハーフティンバー」と呼ばれる構造で、主にヨーロッパの木造住宅で見られる様式で、柱や梁などの骨組みをそのまま外部に出したつくりです。

  

規則正しく積まれた「イギリス積み」

 

レンガの積み方にも注目です。

主な積み方に「イギリス積み」と「フランス積み」があり、赤レンガ建物はイギリス積みで、強度が強く大規模な建物に多い積み方だそうですよ。

 

戦争の爪痕が残る弾丸跡

建物北側の壁には、昭和20年、戦時中に米軍機により受けた弾痕も痛々しく残っています。実際に建物から回収された実弾も……。

建物は建築物としてだけではなく、こうした戦争の遺跡としての価値も大きいですね。

 

忠実に復刻したカブトビールを飲んでみよう!

建物内では、当時作られていたカブトビールをできるだけ再現してつくられたカブトビールを実際に飲むこともできます。それが、カフェ&ビアホール「 Re – BRICK」。

復刻したのは「明治」バージョンと「大正」バージョンの2種類。

ともにレシピは残っていなかったようですが、明治バージョンのほうは当時の文献をもとにつくられたもので、見た目は赤褐色。アルコール度数も少し高めの7%。

そしてもうひとつの大正バージョンは、当時の成分表をもとにつくられ、見た目は琥珀色で度数は5%。

●明治カブトビール

アルコール度数 7%
ホップ 現在の2倍(苦みの強いビール)
麦汁糖度が高く赤褐色で当時は「赤ビール」と呼ばれていた
炭酸が現在のビールより30%ほど少ない

<使用原料>
モルト ドイツ産
ホップ ドイツ産主体に一部香り付けでアメリカ産使用

<製造方法>
下面発酵 ドイツで軟水用として開発された酵母を使用。冬場・低温発酵(10℃)、0℃で90日間長期貯蔵の本格ラガービール。

 

●大正カブトビール

アルコール度数 5%
色は琥珀色で現代のビールに近い
麦汁糖度が高く、芳醇な香り

<使用原料>
モルト ドイツ産
ホップ ドイツ産

<製造方法>
下面発酵(10℃)、0℃で60日間長期貯蔵の本格ラガービール。

<生カブトビール飲み比べセット 800円。単品は各600円>

 

せっかくなので飲み比べもできるメニューもあるので、さっそく飲んでみました!

通常のグラスより小さめの230ml。明治バージョンは味は黒ビールに近く、クラフトビールといった感じ。炭酸は少なく、甘さと後味で苦みが残るバランス。思っていた以上に美味しく意外でした。

一方大正バージョンは、スッキリとした飲みやすさで、普段飲む現代のビールに近い感じ。

飲み比べが楽しめるのはここのレストランだけなので、気になる方はぜひお試しくださいね。

<赤レンガカレー1,000円。ランチタイムにはサラダ・ドリンク付>

 

また、明治カブトビールが隠し味に使われているという「赤レンガカレー」はスパイスのきいた季節の野菜がたっぷりのオリジナルカレー。ビールとの相性もバッチリです。

そのほか、地元産ソーセージ4種類とブレッツエルを使った、こちらもカブトビールに合うプレートなど、あわせて楽しめるメニューも嬉しいですね。

 

カフェ&ビアホール 「Re-BRICK」

営業時間
10:00~21:00 (ラストオーダー 20:30)

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当面の間、下記の営業時間に変更とさせて頂きます

【変更後の営業時間】
10:00~17:00(ラストオーダー16:30)

 

お土産ショップで購入も可能

飲み比べができるのはこちらのレストランだけですが、せっかくならお土産にも欲しい!という方は、建物内のショップでも購入可能です。

こちらは飲み比べの2本とオリジナルグラス1個がついたセット(2,000円)。
パッケージもレトロで可愛く、お土産にも喜ばれそう。

ビールのみの2本セットもあります(冷蔵のみ/1,200円 ※常温はおいていません)

そのほかなつかしのラムネや赤レンガカレーなど……。

また、醸造の町ならではの醤油や味噌、お酢なども充実しています。

 

取り壊しの危機から救った有志の人たち

実は半田赤レンガ建物は、取り壊しの危機にあっていました。

そこで立ち上がったのが、一般社団法人 赤煉瓦倶楽部半田で現在理事長の馬場さんをはじめとした有志の方々。馬場さんは保存活動に当初から携わっていて、かれこれ30年近くになるそうです。

今回はそんな馬場理事長にお話を伺いました。

– どういった経緯でこのような活動をされているんでしょうか

馬場理事長:「もともと僕は京都の舞鶴出身で岐阜の大学を卒業後、ミツカンに就職しました。十数年したころ、兄から突然連絡があり、半田の赤レンガ建物が取り壊されるという噂を聞いて、地元の有識者に話しをするために半田に下見にくると言われたんです」

 

– お兄さんがですか?

馬場理事長:「わたしの兄は地元の舞鶴市役所に勤務していたんですが、舞鶴には旧明治海軍の軍用の赤レンガ倉庫が70棟もあって、引き上げで暗い町のイメージを払拭したいという思いで、兄が座長となって赤レンガ探検隊を作って町おこしをはじめたんです。

そういったことで、僕にとりまとめをして有識者を集めてほしいと。そこで前半田市長や地元の有識者に集まってもらって話を聞いたんです。

それまで建物についても全く知らなかったんですが、そんなに貴重なものなのかと……。
そこから保存活動に携わりはじめたんです」

– 現在建物は半田市の管轄でらっしゃるんですよね

馬場理事長:「もともと日本食品加工というデンプン会社の持ちものでしたが、平成6年に撤退するにあたり、どこか買ってくれないかと動いていたけどどこも買ってくれない……。そこでとった策が、建物を取り壊して更地にして土地だけ売ろうとして、すでに東棟の取り壊しをはじめていたんです」

 

– そんな危機に陥ってたんですね

馬場理事長:「その噂を聞きつけてあわてて現場にかけつけたらすでに重機も入っていて、自分たちの力だけではどうすることもできないと思い、いちるいの望みでダメもとで市長にかけあったら、当時の市長が動いてくれたんです。

議会や市民からの反対もありながら、なんとか平成8年に市が購入を決めてくれました」

保存活動に当初から精力的に携わる、赤煉瓦倶楽部半田の理事長の馬場さん

 

– 今後の展望を教えてください

馬場理事長:「建物を保存し、活用するという目的はほぼ達成したんですが、まだこの建物・歴史について空白部分でわかってない部分があるんです。

たとえば設備が一切残っていない。どのような機械があって、どのような生産がおこなわれていたのか明らかになっていないので、そこを調査・研究して世の中に出したいんです。

そしてもうひとつの活動で大きな柱と考えているのが、価値・魅力を将来に伝承するための教育活動です。実際に今は小学校で出前授業をしています。この秋にはこどもたちがこの建物に見学に来る予定です。目をキラキラさせながら真剣に聞いてくれてこっちも嬉しいんです。大人になって会員になりたいという子もいるんですよ!」

模型・映像・当時の写真等が展示してある「常設展示室」。入場料大人200円・中学生以下無料

江戸から明治という激動の時代に翻弄されつつも、果敢に新しいビールづくりという事業に挑戦した当時の起業家たち。そしてその想いを引き継ぎ、その価値を後世に引き継ぎたいという熱い想いもヒシヒシと伝わってきました。

貴重な歴史的建物で、復刻した当時のカブトビールをいただきながら、現地に足を運んで想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

INFORMATION

半田赤レンガ建物

所在地

愛知県半田市榎下町8番地

営業時間

10:00~17:00

定休日

年末年始

電話番号

0569-24-7031

アクセス

車/半田中央インターより東へ車で10分 ※知多半島道路利用
電車/【名鉄河和線利用】住吉町駅下車東徒歩5分
【JR武豊線利用】 半田駅下車北西徒歩15分
駐車場:【北駐車場】323台(うち、名古屋ハウジングセンター用駐車場199台)
【南駐車場】38台
【バス】4台

公式サイトURL

http://handa-akarenga-tatemono.jp/

Writer

ふるかわ かずみ

記者

ライターふるかわ かずみ

結婚情報誌、美容、飲食を展開する出版社に約9年勤務。結婚を機に退職後は旅行好きが高じてフリーライターへ。家の転勤で福岡・広島を経由し、現在は名古屋市在住。愛知県はもちろん、東海3県の魅力を満喫&発掘中。得意分野は神社や温泉、そのほか美味しいものも大好き。地元の人の「当たり前」にプラス「新たな発見」をお届けします。