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日本初のエレベーター導入は明治時代! 現存する日本最古のエレベーターは京都にあり

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2022/11/18

日本初のエレベーター導入は明治時代! 現存する日本最古のエレベーターは京都にあり

いずのうみ

記者

ライターいずのうみ

ビルやマンションの高層化が進み、エレベーターは私たちの暮らしに欠かせない存在です。日本で初めて電動エレベーターが導入されたのは、明治23年(1890年)に浅草の凌雲閣(りょううんかく)がはじまりと言われています。

現在は浅草の凌雲閣は取り壊されたため当時のエレベーターは見ることはできませんが、現存する日本最古のエレベーターは昭和20年ごろから今も現役で活躍しています。それが見られるのが京都にある老舗北京料理店の「東華菜館」です。

今回は、日本のエレベーターの歴史や現存する日本最古のエレベーターを紹介します。東華菜館は建築物としても魅力にあふれたお店なので、ぜひ一度訪れてみてください。

 

浅草の12階建てのタワー「凌雲閣」で日本初の電動エレベーターが誕生!

東京を代表するスポットの一つとなるスカイツリー。日本一高い電波塔として多くの観光客が訪れますが、その近くの浅草にも明治時代には日本一高いタワーが建てられていました。

凌雲閣(出典:国立国会図書館デジタルコレクション『仁山智水帖』)

 

東京の中でも古い歴史を持つ浅草は、江戸時代より浅草寺の門前町として発展してきました。明治23年(1890年)11月10日には、「雲を凌ぐほど高い」という意味が込められた「凌雲閣」が建てられ、その高さは52メートルと当時の日本で一番の高さを誇ります。12階建てだったことから「浅草十二階」とも呼ばれており、このうち1階から8階部分に日本で初めての電動エレベーターが導入されました。

これは、日本一の高さをもってしても、12階建てを階段で上るとなれば客足が伸びない可能性があることを懸念したためです。閣内中央につるべ式で設置されていた2台のエレベーターは、1階から8階までを1分ほどで昇降していました。また、内部の壁際には布団を敷いた腰掛けがあり、一度に15〜20人載せていたという記録も残されています。

凌雲閣から眺める浅草寺(出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本之名勝』)

 

凌雲閣は八角形の12階建てで、1階から10階がレンガ造り、11・12階が木造と変わった形をしていました。10階から12階までは展望室になっていて、それより下の階には50ほどの店が軒を連ねていました。最上階の展望室には望遠鏡が設置され、東京が一望できるほか、房総半島も見渡せたと言われています。

一躍浅草の新名所として有名となった凌雲閣ですが、度重なる故障や落下防止装置が不十分という理由で警察から指示を受け、エレベーターはわずか半年で運転停止を余儀なくされます。開業当初に来日したアメリカ人貿易商のロバート・ガーディナーも「手入れが行き届いていない電動エレベーター」と苦言したとか……。しかし、大正3年(1914年)にはエレベーターの稼働が再開。凌雲閣は浅草のシンボル的存在とされ、当時の浅草を描く風景画の多くに、凌雲閣が描かれています。

 

関東大震災により倒壊。凌雲閣は解体へ

関東大震災後の凌雲閣(左)(出典:国立国会図書館デジタルコレクション『関東大震災画報 : 写真時報』)

 

大正12年(1923年)、関東大震災が起こります。死者・行方不明者が10万人を超え、東京に甚大な被害を出しました。凌雲閣も地震により大打撃を受け、8階から上が倒壊。下の階も傾いてしまったため再建が検討されましたが、経営難の状態が続いていたため、解体が決定しました。

浅草を代表する名所として長年賑わっていた凌雲閣でしたが、33年で幕閉じたのです。その後、凌雲閣の跡地には劇場が建てられ、現在は娯楽施設となっています。

 

現存する日本最古のエレベーターに乗れる京都の東華菜館

日本にある最古のエレベーターは大正時代に設置されたもので、現在も稼働しているため私たちも乗ることができます。

このエレベーターがあるお店は京都の鴨川沿い、多くの人で賑わう河原町の近くに佇む「東華菜館」。昭和20年(1945年)から続く北京料理のお店ですが、建物とエレベーターは大正時代に造られたものが当時のまま残されています。

今回は、実際にお店を訪れ、エレベーターや建物の魅力についてお話を伺いました!

 

ほかでは見られない珍しいポイントだらけ!日本最古のエレベーター

東華菜館のエレベーターは1924年(大正13年)にアメリカで製造・輸入されたOTIS製のものです。日本で現存する最古のエレベーターには、当時の技術や部品が詰め込まれています。

エレベーターの所在を示すフロアインジケーターはブロンズ製で時計針式。よく見ると階数の間隔がそれぞれ違っています。実際のフロアの天井の高さが異なるため、それぞれに合わせて文字の位置も調整されているとのことです。

5階のフロアインジケーターだけ下半円となっています。

 

お店は2階から5階が客席となり、1階は受付などのフロア、5階の上階は屋上ビアガーデンフロアです。

エレベーターの出入り口はL字方向に2つあり、フロアによって乗り降りする面が異なります。

エレベーターの内扉は蛇腹式の格子となっています。中には最大定員13名(900kg)と書かれていますが、実際には乗れるのは少し詰めて8人ほど。近年は新型コロナウイルスの感染対策もあり、ゆったり乗ってもらうようにしています。

エレベーターは電動ですが、上下の移動は手動のハンドルで操作を行います。写真の黒いハンドルレバーを手前に引き、左に動かすと下方向、右へ動かすと上方向へ、真ん中に戻すと停止します。

昔はエレベーターの停止位置と床の高さが合うように、ハンドルレバーの操作で微調整していたようですが、現在は半自動で合わせてくれるとのこと。

実際に乗ってみると、思ったより動きがスムーズでした。「ブゥーン」というレトロな機械音やハンドルレバーでの操作、内扉・外扉の開閉など、乗る瞬間から降りる瞬間まで、まるでタイムスリップしたような不思議な感覚になります。

屋上にある塔は、エレベーターのマシンルーム。昇降機材が格納されています。

 

エレベーターの見た目や装飾は大正時代のままほとんど変わっていませんが、安全面を確保するために、ワイヤー、ストッパー、モーターは新しいものに交換されています。また、月に2回の定期メンテナンスに加え、年に2回は大きなメンテナンスも実施。

日本最古のエレベーターに利用客が気軽に乗れるのは、お店がお客様の安全を第一に考えながら、意匠を大切に守ってくれているからなのですね。

また、エレベーターに乗る際は蛇腹の内扉にもたれかかったり指などを出さないように注意しましょう。内扉、外扉の開閉や操作はすべてお店の方が行ってくれるため、むやみにボタンをいじったり動き回ったりしないよう、利用する私たちもエレベーターやお店への配慮が必要です。

 

スパニッシュ・バロック様式ならではのさまざまな趣向が凝らされた建物

東華菜館は昭和20年(1945年)に開店した北京料理店ですが、その前進は「矢尾政」という西洋料理店でした。矢尾政の2代目当主が新しいビアレストランをつくるために設計をウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏に依頼し、大正15年(1926年)にスパニッシュ・バロック様式の洋館が建てられました。

第二次世界大戦後、矢尾政の店主は友人の于(う)永善氏に託し、東華菜館となりました。

建築家のヴォーリズ氏は大学や教会などの美しい建築物を多く手掛けていますが、東華菜館は彼の生涯で唯一と言えるレストラン建築です。

東華菜館 店舗入り口

 

大聖堂や教会を思わせる重厚な外観だけでなく、天井や梁、家具や調度品など、内部のさまざまな箇所にも趣向が凝らされています。

5階客席フロア

 

2階〜5階の客席はフロアによって趣が異なります。5階は清廉な雰囲気の客席で、窓からの眺望は抜群。

写真は屋上からの眺めですが、4階の窓からも鴨川や京都の街並み、遠くの山々まで見渡せます。

ドリンクを作るスペースの床には当時のタイルが残され、カウンターには大理石が使われています。

4階客席フロア

 

4階は華美な装飾が印象的なフロアで、中国の提燈も全体の雰囲気を華やかにしています。天井や梁にも美しく細かい模様が描かれています。

天井と梁に描かれている模様もフロアごとに異なります

 

緻密で精巧なアーチが美しい個室

 

大小さまざまな個室のある2階は予約席。2人〜18人までに対応できる個室があり、ヴォーリス氏が設計した調度品や建築当時から使われている家具なども見ることができます。

建築当時の写真を元に復元した3階の照明器具

ヴォーリスが設計した電飾やステンドグラスが組み込まれた棚、ベンチなどはとても貴重なものですが、現在も日常的に使われています。

 

東華菜館創業当初から使われているイスは中国から取り寄せられたものだそう

 

また、海の幸や山の幸など食材をモチーフとした彫刻も店内にちりばめられています。

梁に描かれたタツノオトシゴ

 

玄関部分にはタコがいます

 

イルカらしき生き物も発見!

 

ヴォーリズ氏のデザインはシンプルな直線と曲線を組み合わせたデザインが特徴で、床板の組み方や扉の模様など、細かな部分にもこだわりが見られます。東華菜館の料理を楽しみつつ、建築当時の雰囲気を感じたりデザインへのこだわりを探したりするのも、楽しみの一つでしょう。

北京料理とは、上海・広東・四川に並ぶ中華料理の四大体系の一つです。乾燥したフカヒレ・干しアワビ・干しナマコ等の乾燥食材を使った山東料理をルーツに持ち、宮廷料理として発展してきました。
塩味ベースの比較的あっさりした高尚な味わいが特徴です。また、乾燥食材は多くの栄養を含んでいることから、北京料理は「医食同源」を体現しているとも言われます。

東華菜館では、フカヒレや海ツバメの巣、アワビ、ナマコなどの乾燥させた食材を使用した料理からエビや牛・豚・鶏肉など馴染み深い食材を使った料理まで、幅広く提供しています。春巻き、酢豚、エビの甘酢あんかけ、チンジャオロースなどもおすすめです。料理は単品オーダーとコースも選べるため、予算やシーンに合わせて利用できますよ。

 

京都の街並みに馴染む歴史ある洋館「東華菜館」へ行こう

京都は、古くから仏教をはじめとした数多の外来文化を取り入れ発展してきた斬新さを体現する街です。そのため、重厚感があるこの洋館も、多数の神社仏閣や町家を有する京都の古い街並みに自然と溶け込んでいます。

古都・京都の歴史とともに歩んできた洋館は、今や京都に欠かせない建物の一つではないでしょうか。京都を訪れる際は、東華菜館でおいしい北京料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。建築美や日本に現存する最古のエレベーターにもぜひ注目してみてくださいね。

東華菜館 公式サイト
https://tohkasaikan.com/
※見学のみを目的とした来店は不可

 

INFORMATION

東華菜館 ※見学のみを目的とした来店は不可

公式サイトURL

https://tohkasaikan.com/

Writer

いずのうみ

記者

ライターいずのうみ

愛知県名古屋市在住のライター・編集者。コピーライター3年、広告代理店でメディア編集者3年を経て、現在はフリーランスとして活動しています。これまでに金融やSDGs、ファッション、美容などさまざまなジャンルのメディアを担当してきましたが、グルメと旅行のジャンルが最も得意です。趣味は国内旅行(47都道府県制覇!)、読書、お酒。犬と猫を飼い、毎日楽しく過ごしています!