記者
ライター山村 咲木
2023/05/13
みなさん、「リードオルガン」という楽器をご存じですか?
ピアノに次いで、鍵盤楽器の代表ともいえる「オルガン」。その名を聞くと、パイプオルガンや電子オルガンなどが頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。今回取り上げる「リードオルガン」は、明治時代にはじめて日本へ広まった西洋楽器のひとつです。
日本では、6月1日は「リードオルガンの日」とされています。標準サイズのリードオルガンの鍵盤数が61鍵であることからこの日付となったそう。この時期にはリードオルガンの魅力を世へ広めるべく、さまざまな場所で大会やイベントが開催されます。
足踏み式のオルガンのことを「リードオルガン」といいます。リードオルガンは、空気を吸い込んでリードを鳴らす吸気式のオルガン。足元にあるペダルを踏むと、中にある「ふいご」が広がって減圧します。そして、鍵盤を押すことによりバルブが開き空気が通り、リードという金属製の薄い板が振動して音が出るという仕組みです。
実際に使われていたリード
オルガンの歴史は深く、その起源は時を遡ること2000年以上前といわれています。
その中でもリードオルガンは、19世紀の中頃にフランスで発明された楽器です。ピアノよりも安価だったこともありその人気は高く、19世紀後半には娯楽のひとつとしてアメリカへ広まっていきました。
日本にリードオルガンがやってきたのは、明治時代初期。明治維新以降、外国人宣教師がキリスト教の伝道のために来日。その際、日本へリードオルガンが持ち込まれました。主に教会や学校に置かれ、音楽教育の道具として使用されることに。リードオルガンは、一般の人々が西洋音楽に触れるきっかけとなった楽器でもあるのです。
昭和30年代までは、どこの小学校にも置いてあったのだとか。その時代を生きた人々は、リードオルガンという名前を聞くと昔懐かしい記憶が蘇る方もいるのではないでしょうか。
浜松市楽器博物館
日本を代表する楽器メーカー ヤマハや河合楽器製作所が本社を構える静岡県浜松市。今回はリードオルガンについて知るべく、“音楽の街”として有名な浜松市にある「浜松市楽器博物館」へお邪魔してきました!
「オセアニア」や「アフリカ」などの楽器が揃うコーナー
ここ「浜松市楽器博物館」は、世界中から集められた1,500点もの楽器が地域別・種類別・年代別に展示された、世界的にも大規模な日本で唯一の公立楽器博物館です。
「世界の楽器を偏りなく平等に展示して、楽器を通して人間の知恵と感性を探る」をコンセプトとした館内には、各コーナーごとに個性溢れる世界の楽器たちがズラリと並んでおり、見応えは抜群!
そんな「浜松市楽器博物館」でリードオルガンに出会える場所は、2ヶ所。
まず最初にご紹介するのは、国産洋楽器コーナー。ここでは、ヤマハや河合楽器製作所をはじめとする国産メーカーが手がけた洋楽器の数々が、種類別にわかりやすく展示されています。
明治時代に国内で普及しはじめたリードオルガンですが、ここ日本で製造を始めたのは当時横浜市にあった「西川オルガン」から。その後、浜松市を代表する楽器メーカー ヤマハの創業者である山葉 寅楠もリードオルガンの製造をはじめます。
大阪で医療器具などの修理工をしていた山葉 寅楠は、浜松の小学校に置いてあったアメリカ製のオルガンを修理したことをきっかけに、リードオルガンの製造を始めたのだとか。さすが世界のヤマハ!素晴らしい経歴と才能に驚きです。
「浜松市楽器博物館」で展示されているリードオルガンの数は、なんと20台以上!明治〜昭和にかけて製造されたものが多く、時代の変化とともに変わゆくリードオルガンの姿を楽しむことができます。
日本楽器製造株式会社 明治43年頃
こちらは、明治43(1910)年ごろのリードオルガン。シンプルかつクラシカルで、とても味のあるレトロな雰囲気がたまらないデザインです。
日本楽器製造(明治〜大正) 大和オルガン 2号型
下部が布で被われている和風なリードオルガン。一説には、着物を着ている人が演奏する際に裾がはだけるのを隠すための布だったのでは?とも言われています。もしくは、野外での演奏時に足の保湿を保つ役割をしていたのかもしれません。なぜこのようなデザインになったのか真意はわかりませんが、日本らしい美しさが映えたデザインですよね。
日本楽器製造株式会社 明治42年 第十五号型
こちらは、明治42(1909)年に開校された磐田郡立高等女学校(現:磐田北高校)に残されていた貴重なリードオルガン。深い黄緑色のペダル部分が、渋みがあってかっこいい。当時の教育現場でこのオルガンが実際に使われていたかと思うと、歴史の深さを感じます。
リードオルガンの注目ポイントは、足踏みをするペダル部分のデザインです。このペダル部分には、それぞれのリードオルガンに合った素敵なデザインが施されています。幾何学的なものやアンティーク調のものなど……。足踏み式ならではのデザインへのこだわりが、ここにぎっしりと詰まっています。
もうひとつ注目してほしいのが、こちらの「ストップ」と呼ばれるレバー。オルガンの音色を調整するためのレバーです。このストップも、一つひとつ形やデザインが違っていて、個性豊かなんです。
日本楽器製造 昭和8年
一風変わったこちらのリードオルガンは、昭和8(1933)年のもの。鍵盤が2段に分かれており、サイズ感も迫力満点。初期のころに作られたものと比べると、高級感のある豪華なデザインも増え、目で見ても楽しめる楽器へと変化していることがわかります。
「浜松市楽器博物館」には、実際にリードオルガンを演奏することができるスペースも!音楽好きのお子さんから大人まで、たくさんの方が楽しそうに演奏する姿を見かけました。ほかではできない貴重な体験を、ぜひみなさんも試してみてくださいね。
次にご紹介するのは、鍵盤楽器ルームに展示されているオルガンたち。ここには、ヨーロッパやアメリカなどで作られたさまざまな種類のオルガンがそろっています。
左:エスティオルガン(アメリカ)、右:メイソン&ハムリン(アメリカ)
こちらのふたつは、どちらもアメリカ製のリードオルガン。左手にあるものは、鏡の付いたゴージャスなつくりが印象的。赤を差し込んだデザインがより一層、豪華な雰囲気を醸し出しています。
エスティオルガン(アメリカ)
このオルガンも、アメリカ製のリードオルガンです。一見、パイプオルガンのようにも見えますが、この上部にあるパイプはただの装飾品。見栄えのためなのか、このようにリードオルガンにあえてパイプの飾りを付けることも多かったそうです。
チェンバーオルガン(イングランド)
チェンバーオルガンという小型のパイプオルガン。先ほどのものとは違い、こちらは正真正銘本物のパイプオルガンです。コンパクトにまとめられた小型のパイプオルガンは、小さな教会や家庭で使われていたそうです。
チェンバーオルガン(オランダ)
こちらはオランダ製のチェンバーオルガン。ボックス型のパイプオルガンは、また違う品の良さがありますね。
ここまで、リードオルガンをはじめ歴史あるオルガンたちをご紹介してきました。「浜松市楽器博物館」には、まだまだほかにもたくさんのオルガンが展示されています。またオルガンだけではなく、いろいろな楽器との出会いを見つけられる素敵な場所です。
ぜひみなさんも「浜松市楽器博物館」で音楽の歴史について学びに、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
【浜松市楽器博物館】
住 所 :〒430-7790 静岡県浜松市中区中央3-9-1
電話番号 :053-451-1128
駐車場 :なし(近くに有料駐車場有り)
web :https://www.gakkihaku.jp/
Instagram :https://www.instagram.com/gakkihaku_official/
Facebook :https://www.facebook.com/gakkihaku
博物館明治村にも、明治時代につくられたリードオルガンがあることを知っていますか?1丁目6番地にある聖ヨハネ教会堂には、日本で現存する最大級のリードオルガンが展示されています。
1890年代 Clough&Warren社製
こちらは、1890年代に製造されたアメリカ・ミシガン州デトロイトのメーカー Clough&Warren社のリードオルガン。椅子と足鍵盤が一体化しており、美しく繊細なデザインの装飾は教会堂の中でもひと際存在感を放っています。
ペダル部分のデザインにもぜひ注目してみてください!
博物館明治村に所蔵されているリードオルガンは、時代の経過とともに音がでなくなっていました。しかし、2018年に立ち上げたクラウドファンディングによる多くの支援によって修理が施され、明治の音色を奏でるリードオルガンが見事に蘇りました。
博物館明治村では、リードオルガンの音色を楽しむ音楽イベントなども開催されています。ぜひ明治村へ訪れた際は、聖ヨハネ教会堂にあるリードオルガンが奏でる「明治の音」を聴きに足を運んでみてくださいね!
所在地 |
愛知県犬山市字内山1番地 |
---|---|
営業時間 |
月毎に変更します。詳細はHPでご確認ください。 |
定休日 |
不定休。詳細はHPでご確認ください。 |
電話番号 |
0568-67-0314 |
料金 |
大人 2500円 高校生(要学生証) 1500円 小中学生 700円 |
公式サイトURL |
https://www.meijimura.com/sight/%E8%81%96%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%8D%E6%95%99%E4%BC%9A%E5%A0%82/ |
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