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【鉄道150周年企画】東京ステーションギャラリー「鉄道と美術の150年」展へ行ってきました。

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アート

2023/01/05

【鉄道150周年企画】東京ステーションギャラリー「鉄道と美術の150年」展へ行ってきました。

メイジノオト編集部

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メイジノオト編集部

この記事は、2022年10月8日〜2023年1月9日に開催されたイベントの体験レポート記事です。

1872年(明治5)10月14日に鉄道が開業し、今年で150年。

そこで今回メイジノオト編集部は、鉄道開業150周年企画のひとつとして、東京ステーションギャラリーで開催中の「鉄道と美術の150年」展へ行ってきました。

鉄道150周年の歴史

東京駅丸の内北口 ©︎Shinobu Yanagi

日本の鉄道が1872(明治5)年10月14日に新橋〜横浜間で開業して150年を迎えました。

翌10月15日からは旅客列車の運転が開始され、これを境に日本の交通事情、時間の使い方の概念が変化しました。人々の生活様式が大きく変わり、現代の生活に欠かせない手段となっています。

「鉄道と美術の150年」とは?

東京ステーションギャラリーで開催中の「鉄道と美術の150年」では、1872年の鉄道開業から今日までの鉄道史を、錦絵から近現代美術まで、鉄道をモチーフにした作品とともに振り返ります。

鉄道史や美術史はもちろんのこと、政治・社会・戦争・風俗など、さまざまな視点から読み解き、両者の関係を明らかにしていきます。

東京ステーションギャラリーは、東京駅の丸の内北口駅舎の改札を出て5秒の場所にある1988年に開館した美術館です。開館以来、駅舎の構造を露わにしたレンガ壁の展示室と、ユニークな展覧会で親しまれています。

なぜ鉄道と美術なのか?

2階展示室 ©︎Hayato Wakabayashi

−今回、鉄道と美術をテーマに選ばれたきっかけを冨田館長に伺いました。

冨田館長:「2022年が鉄道開業150周年であることは分かっていましたので、記念となる展覧会を開催するべく、5年ほど前から準備を進めてきました。まずそれぞれの学芸員が鉄道を描いた美術品を調査し、リスト化する作業からはじめ、2年前くらいにそれらを基に展覧会の構成を決めていきました。

そんな中で、「美術」という言葉が日本で初めて使われた年が、鉄道が開業したのと同じ明治5年だったことに気がついたのです。

明治維新のあと、日本は一刻も早く西洋に追いつくために、西洋のモノや制度を次々と導入しましたが、鉄道はイギリスから機関車やレールを輸入して走らせたものでした。

同じように「美術」という言葉も、翻訳語として取り入れられたものでした。鉄道と美術とは、ともに西洋の大きな影響の下に生まれ、日本の近代化という波に乗り、ときに翻弄されながら展開してきたものだったのです。

鉄道史や美術史はもちろんのこと、政治、経済、社会、風俗などの視点から、鉄道と美術との関わりをとらえた展覧会です。それぞれの作品のエピソードやさまざまな背景を感じながら楽しんでいただければと思います。」

見どころポイント

① 鉄道と美術の一筋縄ではいかない、ただならぬ関係

鉄道は常に美術を触発してきました。鉄道開業前後には、多くの絵師たちが錦絵に汽車や駅の姿を描いています。やがて洋画家や日本画家たちも、モチーフとして鉄道を取り上げるようになり、それは現代まで続いています。

勇壮な機関車、夕陽に照らされた鉄路、駅の雑踏など、鉄道は美術家たちの創作意欲を掻き立てる素材に満ちています。

全国津々浦々に、さらに昭和初期には海外まで拡張された鉄道網は、美術家たちの行動半径を一気に広げました。彼らは地方に制作旅行にでかけ、留学や従軍の際にも鉄道を利用し、その過程で数々の印象的な作品を残しています。

一方で、美術は鉄道を単に描くだけではなく、あたかも挑発するかのように鉄道を題材として制作行為の中に巻き込んでいきます。鉄道開業以前に、絵師たちはまだ存在しない鉄道を自由な発想で描き、人々の興味を掻き立てました。1960年代には、駅や電車内を舞台としたアクションやパフォーマンスが行われ、その先進性は高い評価を得ています。阪神・淡路大震災や東北大震災に際しては、車窓や駅にアート作品がゲリラ的に掲げられて強いメッセージが発信されました。

鉄道は美術を触発し、美術は鉄道を挑発する、そんなスリリングな関係性は、本展の大きな見どころです。

② 近現代鉄道絵画の傑作が勢ぞろい

中村宏《ブーツと汽車》1966年、名古屋市美術館

アメリカから1854年に贈られた蒸気機関車の模型を表した画巻から、日比野克彦が2021年にデザインした電車のヘッドマークに至るまで、150作品の中には、興味深い作品がいくつも含まれています。

河鍋暁斎の想像力が炸裂する『地獄極楽めぐり図』より「極楽行きの汽車」、近年発見され話題となった鉄道構造物「高輪築堤」を描いた小林清親の《高輪牛町朧月景》、鉄道錦絵を数多く手がけた歌川広重(三代)の代表作《横浜海岸鉄道蒸気車図》など、いずれも明治美術史上名高い作品です。

また、五姓田義松《駿河湾風景》、都路華香《汽車図巻》、赤松麟作《夜汽車》、川上涼花《鉄路》、梶原緋佐子《帰郷》、長谷川利行《汽罐車庫》、中村岳陵《驀進》、香月泰男《煙》といった、近現代鉄道絵画の傑作群が勢ぞろいします。

③ 個性的な現代アートと写真家たちによる多彩な作品群

パラモデル《極楽百景 第八景 –新世界 パーク温泉 斬新な入浴-》2007年、和歌山県立近代美術館
©︎paramodel/photo:yasuhiko hayashi

戦後美術の分野には個性的な作品が並びます。中村宏、立石大河亞、宮島達男、柳幸典、島袋道浩、Chim↑Pom from Smappa!Groupらの現代アート作品は、鉄道と美術の意外な関係を提示しています。

また、淵上白陽、W. ユージン・スミス、大野源二郎、長野重一、本城直季といった個性的な写真家たちによる、鉄道の多彩な表情を切り取った作品も本展の大きな見どころのひとつです。

鉄道開業前後に制作された錦絵の代表的な作品群から、近現代鉄道絵画の傑作の数々、写真家たちが個性的なアングルで切り取った鉄道の多彩な表情、さらに現代アーティストたちによる鉄道への独創的なアプローチまで、さまざまな視点から鉄道と美術の150年に光を当ています。

注目の作品をピックアップ

3階展示室 ©︎Hayato Wakabayashi

今回は膨大な作品群の中から、メイジノオトの読者の方にぜひ知っていただきたい作品をピックアップしました。

歌川広重(三代)《横浜海岸鉄道蒸気車図》1874年、神奈川県立歴史博物館

鉄道開業から2年後に描かれた、歌川広重(三代)《横浜海岸鉄道蒸気車図》。海には各国の旗をつけた船が浮かび、開国の華やかさを演出。

画面右側の蒸気車の車両には「中等」という文字が書かれており、当時の車両に等級があったことがわかります。鉄道は、浮世絵の題材として好まれ、横浜の情景を描いたものも多数出版されました。

勝海舟《蒸気車運転絵》 1872年、鉄道博物館

勝海舟が宮中で描いたとされる《蒸気車運転絵》。宮中から依頼で、鉄道に関する説明をおこなった際に、1872年6月に品川~横浜間が仮開業した鉄道を見た様子を、記憶で描いたものと言われています。

小林清親《高輪牛町朧月景》1879年、町田市立国際版画美術館

“最後の浮世絵師”とも呼ばれる明治期を代表する浮世絵師・小林清親の作品。伝統木版の技術の粋を駆使して、西洋風の陰影描写を取り入れており、和と洋が混交する時代を伝えています。

赤松麟作《夜汽車》1901年、東京藝術大学

岡山県津山市生まれの画家・赤松麟作の作品。この作品は、日本鉄道絵画の中で、最も有名な作品としても知られています。

明け方の夜行列車の客車内を生き生きとした調子で描いており、人々の高揚するような気分が、巧みに表現されています。

東京から津に赴任する汽車の中でスケッチをもとに描かれたものなのだそう。

長谷川利行《汽罐車庫》1928年、鉄道博物館

鉄道をモチーフにした作品を数多く生み出している長谷川利行の作品。中でも代表作が、
田端駅の車庫を激情ほとばしる色彩と筆致で描写した《汽罐車庫》。

現在も田端駅には、田端運転所があり鉄道ファン必見の場所でもあります。

田中靖望《機関車》1937年(プリント2017年)、名古屋市美術館

 

香月泰男《煙》1969年、山口県立美術館

鉄道の普及は、画家や写真家に大きな恩恵をもたらし、彼らは全国各地へと制作旅行に赴きました。戦時中になると、若きアーティストたちも派兵され、彼らの中に抱かれた望郷や希望、失意などざまざまな感情を鉄道に仮託し、作品へと昇華させていきました。

展示作品には戦時中に描かれた作品が数多くあるのも、みどころのひとつです。

立石大河亞《香春岳対サント・ビクトワール山》1992年、田川市美術館

 

《ディスカバー・ジャパン no.4》1971年、鉄道博物館

展示作品は現代アーティストの作品も多く展示されています。中には、福島の原発事故の直後に渋谷駅構内に無断設置し、世間の話題となった芸術家集団Chim↑Pomの《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》も展示されています。

3階展示室 右手前の作品が《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》©︎Hayato Wakabayashi

今回は数ある作品の中からピックアップしてご紹介しました。「鉄道と美術の150年」展は、明治から現代までの「鉄道美術」の名作、話題作、問題作約150件が一堂にそろう、東京ステーションギャラリー渾身の展覧会です。

この機会に鉄道と美術の歴史に触れてみてくださいね。

回廊の東京駅歴史展示&レンガにも注目してみよう!

2階の回廊では東京駅丸の内駅舎の歴史を紹介しています。駅舎創建から丸の内の変遷を表した3つのジオラマは、建築と都市の100年を振り返ることができる見ごたえのある展示資料です。

ほかにも2007から2012年に行われた駅舎保存・復原工事で見つかった創建時の貴重な建材や、再現された天井レリーフの原型の実物を間近に楽しめますよ。

館内のレンガにもぜひ注目してみてください。東京駅丸の内駅舎は創建当時、鉄骨煉瓦造の3階建てでした。戦後、2階建てに復興されましたが、2007年から2012年にかけて行われた駅舎保存・復原工事によって、失われた3階部分を復原。

東京ステーションギャラリーでは、可能な限り、駅舎創建当時の構造を露わにしています。そのため構造レンガや鉄骨がむき出しになっています。

壁をよくみるとところどころ、黒く炭化している部分があります。これは、「木レンガ」と呼ばれる内装材をクギで固定するための部材で、黒く炭化しているのは空襲による火災の影響です。

館内で見られるレンガ壁は、明治後期に製造され、大正時代に積まれたレンガと、昭和の戦争の爪痕も残しながら東京駅がたどった歴史を伝えています。

当館の建物の特徴と常設展示にも注目してみてみると、とても面白いですよ。

【東京ステーションギャラリー】
https://www.ejrcf.or.jp/gallery

開催概要
会期 2022年10月8日(土)〜2023年1月9日(月)
会場 東京ステーションギャラリー
住所 東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
時間 10:00~18:00(金曜日~20:00)*入館は閉館30分前まで
休館日 月曜日(10月10日、1月2日、1月9日は開館)、10月11日、12月29日~1月1日
入館料

一般1,400円、高校・大学生1,200円、中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
*最新情報・チケット購入方法は当館ウェブサイトでご確認ください
*当館は6年半の休館を経て2012年10月14日(鉄道の日)に再開館しました。2022年は東京駅丸の内駅舎保存・復原工事完成10周年にあたります
TEL 03-3212-2485
URL https://www.ejrcf.or.jp/gallery
主催 東京ステーションギャラリー[公益財団法人東日本鉄道文化財団]

INFORMATION

東京ステーションギャラリー

所在地

東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)

営業時間

10:00~18:00(金曜日~20:00)*入館は閉館30分前まで

定休日

月曜日(10月10日、1月2日、1月9日は開館)、10月11日、12月29日~1月1日

電話番号

03-3212-2485

公式サイトURL

https://www.ejrcf.or.jp/gallery

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