記者
メイジノオト編集部
2022/01/30
東京国立近代美術館工芸館が2020年秋、地方創生施策の一環として、石川県金沢市に移転。2021年4月に正式名所を「国立工芸館」として、移転オープンしました。
建物は、明治期に建てられた2つの旧陸軍の施設「旧陸軍第九師団司令部庁舎」と「旧陸軍金沢偕行社」を移築。過去に撤去された部分や外観の色なども復元されています。
そこで今回は、現在開催中の展覧会「めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン」と合わせて「国立工芸館」の魅力をご紹介していきます。
国立工芸館は、近現代の工芸・デザイン作品をコレクションする国立美術館です。陶磁器・ガラス・漆工・木工・竹工・染織・人形・金工・工業デザイン・グラフィックデザインなどの各分野にわたって、総数約4,000点を収蔵しています。(令和3年4月1日現在)
近現代の工芸からデザイン全般にわたって、幅広く収集を行っている美術館は国内でも大変めずらしく、その内容においても、国内随一のコレクションを誇っています。
また、金沢市の文化施設や歴史的建造物が集まる「兼六園周辺文化の森」と呼ばれるエリアにあり、周辺の文化施設と合わせたまち歩きが楽しめるのも魅力です。
国立工芸館のみどころの一つは、明治時代の美しい建築が堪能できること。
国の登録有形文化財である「旧陸軍第九師団司令部庁舎」と「旧陸軍金沢偕行社」を移築・活用しており、ともに明治時代に建てられた建造物です。
外観は2棟並んだ歴史的な建造物をガラス張りのエントランスでつなげています。旧陸軍第九師団司令部庁舎は執務室として、また旧陸軍金沢偕行社は将校の社交場として使われていましたが、国立工芸館ではそれぞれを展示棟と管理棟として使用しています。
旧陸軍第九師団司令部庁舎1階 ケヤキ造りの階段
旧陸軍第九師団司令部庁舎1階 シャンデリア
旧陸軍第九師団司令部庁舎 師団長室(2Fラウンジ)
建設当時の色が再現されており、飾りの付いた上げ下げ窓、天井や柱の装飾、ケヤキ造りの重厚な階段など、建設当時の雰囲気を壊さないように復元・整備されています。
旧陸軍金沢偕行社(2F多目的室) 写真 太田拓実
多目的室の内装は格子状の天井や漆喰の壁など明治期の洋風建築の雰囲気を再現しています。
国立工芸館では、テーマに基づく展覧会が年4回ほど開催されます。
現在開催されている「めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン」では、東京国立近代美術館のコレクションに京都国立近代美術館が所蔵する作品も加えて展示されています。
本展は以下の3つの章で構成されています。
①日本のインパクトと<新しい芸術(アール・ヌーヴォー)>の誕生
②「アール・ヌーヴォーの先へ、図案家たちが目指したもの」
③「季節がめぐる工芸、自然が律動するデザイン」
「めぐる」をキーワードに、ジャポニスムの影響を受けて誕生したアール・ヌーヴォーが、最先端の芸術運動として再び日本の美術界に広まるという、文化の還流する様相を「めぐる」という言葉で表し、アール・ヌーヴォーを多角的な視点で紹介しています。
それでは、章ごとに見どころを紹介していきます!
左からエミール・ガレ《獅子頭『日本の怪獣の頭』》(1876-84年頃)、《トンボ文杯》(1880年代)
「日本のインパクトと〈新しい芸術(アール・ヌーヴォー)〉の誕生」では、日本美術が西洋でどのように受け入れられたのかを紹介しています。
アール・ヌーヴォーとは、フランス語で「新しい芸術」を意味する言葉。19世紀末〜20世紀初頭にかけてジャポニスムの影響を受けて、アール・ヌーヴォーが誕生しました。
アルフォンス・ミュシャ《サラ・ベルナール》(1896)
初代宮川香山《色入菖蒲図花瓶》(1897-1912年頃)
ドーム兄弟の作品群
ルネ・ラリック作品群
日本美術に影響を受けたアルフォンス・ミュシャ、アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド、エミール・ガレ、ドーム兄弟、ルネ・ラリックなどアール・ヌーヴォーを代表する作家たちとともに、同時代の作家・初代宮川香山や二代横山彌左衛門、大島如雲らの作品も展示されています。
1900年前後の日本の画家や図案家は、雑誌や印刷メディアを通して、あるいはパリでの様子を見聞きすることでアール・ヌーヴォーと出会いました。
第二章では、アール・ヌーヴォーと出会った日本の画家や図案家にフォーカス。杉浦非水や神坂雪佳など日本の図案家や工芸家たちがアール・ヌーヴォーに何を見出し、何を採り入れ、そしてその先に彼らが何を求めていたのかを探ります。
杉浦非水 作品群
日本のモダンデザインのパイオニアとして知られるのが杉浦非水です。フランスから帰国した洋画家、黒田清輝のアール・ヌーヴォー様式の装飾資料に魅せられ図案家としての道を歩みはじめます。
杉浦非水 《三越呉服店 新館落城》(1914)
杉浦非水 《三越呉服店》(1915)
杉浦非水作品群
1908年に三越呉服店へ専属の図案家として入社。同店のポスターやPR誌のデザインを数多く手がけており、本展覧会でも彼の手掛けた作品が多く見られます。
第三章展示風景
第三章展示風景
板谷波山《葆光彩磁牡丹文様花瓶》(1922)
ジャポニスムの立役者の一人は「自然」こそが日本の美術の師であると賞賛しています。一方で、日本の工芸に眼を向けると、身近な草花や小さな虫にまで注がれるまなざしは、ジャポニスムやアール・ヌーヴォーの時代に限られるものではないことがわかります。
その点こそが西洋の人々にとって大きな発見でした。三章では、日本の装飾芸術の特質として、めぐる季節で培われてきた自然に寄り添う姿勢を、工芸家たちのさまざまな表現を通じて紹介しています。
鹿島一谷《布目象嵌蛙と野草文銀朧銀接合せ壺》(1991)
杉浦非水《非水百花譜》の作品群
杉浦非水が原画を担当し、当時の一流の版画家が多色摺木版画として仕立てた図案集『非水百花譜』も展示されています。
工芸作品だけでなく、デザイン作品が多く展示されているのも国立工芸館ならではです。
常設展示「松田権六の仕事場」
常設展示「松田権六の仕事場」も必見!金沢出身の漆芸家で人間国宝の松田権六の、東京の工房を移築した展示です。仕事場の隣の展示棚には、漆刷毛(うるしばけ)や蒔絵筆、金銀粉をまくのに使う粉筒(ふんづつ)といった道具などが並んでいます。
また、松田の人間国宝としての技術を記録として保存した映像もあり、漆芸ファンならずとも必見の場所です。
今回は、新しく生まれ変わった「国立工芸館」をご紹介しました。近現代の工芸作品やデザイン作品がとても充実しています。ぜひ金沢を訪れる際は、新しい魅力に触れてみてくださいね。
いしかわ赤レンガミュージアム(石川県立歴史博物館・加賀本多博物館)
近隣には、21世紀美術館や香林坊の繁華街、近江町市場、武家屋敷など観光スポットも多く点在しています。周辺の文化施設と合わせまち歩きを楽しんでみてください。
【めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン】
会期:12月25日(土)~2022年3月21日(月・祝)会期中、一部展示替えあり
会場:国立工芸館(金沢市出羽町3-2)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
入館料:一般300円ほか
高校生以下、18歳未満、65歳以上、障害者手帳のある方(付添者1人)は無料
オンラインによる事前予約制。当日券も若干あり
休館日:月曜日(3月21日は開館)
JR金沢駅兼六園口よりバス 「広坂・21世紀美術館」徒歩7~9分、「出羽町」下車徒歩5分
※こちらのイベントは終了しております。
所在地 |
金沢市出羽町3-2 |
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営業時間 |
午前9時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで) |
定休日 |
月曜日(3月21日は開館) |
公式サイトURL |
https://www.momat.go.jp/cg/ |
記者
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