記者
明治村学芸員
2026/06/29
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明治村学芸員
二十四節気にそえて 10
昼の時間が最も長いとはいうものの、梅雨時期なのでなかなかその恩恵には預かれないかもしれません。
<洒落た洋館にも見える……、その正体は>

前回に引き続き、明治村へ移築された建物に取り付けられた「紋」をめぐるお話です。
今回取り上げるのは、神戸から移築された「大井牛肉店」。現在も神戸で営業を続けられていますので、関西の方にはなじみ深いお店かもしれませんね。
この建物は、木造2階建てでありながら、一見西洋風の石造建築のようにもみえる瀟洒(しょうしゃ)な佇まいです。
窓は半円アーチの欄間と上げ下げ窓が配され、柱の柱頭飾は建築の教科書にでてくるようなコリント式。さらに2階ベランダ左右には内側に円柱、外側に角柱を配置し、二階の柱にのみ縦溝を彫り、一階とは異なるデザインにするなど、凝ったつくりになっています。
<玄関には凛とした鶴>

西洋風でありながら、唯一、玄関の上にだけ「和」の意匠が取り入れられています。これは京都の町屋によく見られる起(むく)り屋根の下の破風(はふ)の部分に、立体的な鶴の彫刻、その下に「相生橋 大井本店」と金文字の看板が掲げられているのです。
「鶴は千年、亀は万年」と言われるように、鶴は長寿と繁栄のシンボル。また、水辺に生息することから「火伏せ(火災除け)」のお守りともされています。凛と前を向く鶴の姿は、今まさに飛び立とうとしているかのような躍動感があります。道行く人々の視線をふと掴んで離さず、思わず凝視させてしまうような力強さで、多くのお客様を呼び込んだのでしょう。
ちなみに鶴の看板には、お越しになったお客様の再度の来訪を祈る「戻り鶴」「見返り鶴」と呼ばれるものもあります。ある時、奈良の興福寺界隈を散策していた折に、まさにこの「戻り鶴」の看板を見かけたことがあります。

<隠された、もう一つのシンボル>

大井牛肉店の面白さは、この西洋建築のように見えるような建物に、全く和風の看板をドッキングさせた点だけではありません。その洋風な佇まいの中に、もう一つ和の意匠が巧みに取り込まれている点です。
現在は植え込みに隠れて少し見えづらいのですが、それは腰壁の部分にあります。ここには江戸時代の日よけ暖簾に(国会の駿河町の写真)染め抜かれていたような日本の伝統的な「紋」が表現されているのです。
よく見ると、腰壁には「井」という文字の中に「大」、店名の「大井」を意匠化していることがわかります。これは錦絵の「駿河町之図」に見られる「三井」の紋と同じ手法であり、当時の商人や庶民にとって、親しみやすい表現方法だったのでしょう。看板だけではなく、腰壁の意匠にまで日本の伝統的な意匠を採用した点に、大井牛肉店の進取の気概を読み取れるように思います。
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