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コーヒーのファーストウェーブは明治時代から!?<br>コーヒー文化について明治創業「松屋コーヒー」に聞いてみました。

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グルメ 暮らし

2021/12/24

コーヒーのファーストウェーブは明治時代から!?
コーヒー文化について明治創業「松屋コーヒー」に聞いてみました。

溝呂木 真弓

記者

ライター溝呂木 真弓

私たちにとって身近なコーヒー。

最近は、豆の産地・焙煎・淹れ方すべてにこだわる「サードウェーブ」というコーヒー文化がブームになり、個性的なコーヒー専門店や、自宅で本格的なコーヒーを楽しむ人が増えています。ここ数年、コーヒーがより身近な存在になりましたが、日本で親しまれるようになったのは明治時代からというのはご存知でしょうか?

今回は、名古屋・大須にある明治42年創業の珈琲専門店「松屋コーヒー」に、お店のあゆみと共に日本のコーヒーの歴史を伺いました。

名古屋大須で100年以上続く「松屋コーヒー」は、コーヒーの卸販売やカフェ運営など、幅広いコーヒー事業を行っています。こちらの大須本店では、コーヒー豆をはじめとする物販店とカフェ「CAFE LE PIN(カフェルパン)」を運営されています。

お話を伺ったのは、株式会社松屋コーヒー本店で会長を務める松下和義さんです。昭和30年に入社以来、昭和61年に3代目社長就任。現在は会長に就き、主宰するコーヒー教室では、コーヒーのおいしい淹れ方と共に日本のコーヒー文化も伝えています。

 

コーヒーが人々に広がりはじめた明治時代

まずはじめに松屋コーヒーさんの歴史をお伺しました。

松下さん:「明治42年、私の祖母である松下こうが創業したのがはじまりです。今の店舗の近くで、当時は砂糖や小豆などの穀物を扱う食料品店でした。祖父は小学校の先生をしており、定年退職してから本業になりますが、最初は副業だったと聞いています。」

明治42年といえば、前年にはじまった日本から送り出したブラジル移民の多くが、コーヒー農園で働いており、その功績として、ブラジル政府から無償のコーヒー豆が提供されることが決まった年です。

– 日本で最初にコーヒーが伝わったのは、江戸時代と言われていますが、明治時代はどのように飲まれていたのでしょうか?

松下さん:「江戸時代、長崎の出島で初めてコーヒーが伝わりました。貿易港によってコーヒーがもたらされ、外国人や高官たちの間で飲まれましたが、普及することはありませんでした。

明治に入り、文明開化によって洋食屋が誕生し、コーヒーがメニューに加えられるようになりました。日本で初となる喫茶店は明治21年に東京で開店した「可非茶館」です。コーヒーを飲むだけの喫茶店ではなく、ビリヤードや本を読む部屋などが併設された社交場のような場所だったんです。明治前半は限られた階級の人たちがコーヒーを楽しみ、まだ庶民が利用できる店ではありませんでした。」

 – コーヒーが、一般の人々に広まったのは明治後半のことでしょうか?

松下さん:「明治40年以降、東京を中心に次々と庶民でも気軽に入れる店が増えました。中でも多くの人々にコーヒーの味を広めたのは、その後に設立した「カフェ―パウリスタ」といわれています。

明治41年、日本から水野龍氏率いるブラジル移民が渡り、翌年、日本での宣伝・普及を目的にブラジルからコーヒー豆の提供を受けることが決まりました。その量は当時の年間消費量の7倍という、とんでもない量でしたから売るところがなかったんです。それで、ブラジルコーヒーの販売・宣伝活動のため、水野氏により「カフェ―パウリスタ」が設立されました。

他の店より安く提供していたことから、一気に庶民に広がり、最盛期には全国に22店舗ほど展開したそうです。その後、ブラジルからの無償提供が終わり、関東大震災の影響もありカフェ―パウリスタは撤退しますが、そこで働いていた人たちが、後を引き継いで、今のコーヒー業界のはじまりになりました。」

 

名古屋にコーヒーが広がったのはいつから?

明治期に建てられた店舗の前にて、撮影は松下さんが生まれる前の昭和10年頃。

 

– 松屋コーヒーさんはいつからコーヒーの販売をはじめたのでしょうか?

松下さん:「大正7~8年の不況期に何かほかにできないかと、祖父と父が東京で見つけてきたのがコーヒーです。しかし名古屋はまだコーヒーは普及していませんから、喫茶店ではなくビリヤード場や洋食屋に販売していたそうです。

その頃、東京から不二家や木村コーヒーが名古屋に進出し、名古屋市内にもぽつぽつと喫茶店が増えはじめ、大正10年頃から昭和初期にかけて100軒ほどになりました。私たち松屋コーヒーも昭和初期、万松寺通の角で喫茶店を営業していた時期がありました。」

 

セカンドウェーブは昭和の喫茶店ブーム

昭和31年、初めて購入した営業車

 

松下さんが高校卒業後、松屋コーヒーに入社したのは昭和30年のこと。翌年、初めて自動車を導入し、配達エリアは名古屋のみならず、東海3県へと拡大していきました。

昭和35年頃、喫茶店用のコーヒーカップやグラスなどの洋食器も販売

 

昭和30年代からは、高度経済成長に伴い喫茶店が次々と登場する時代。昭和41年に全国に2万軒近くあった喫茶店は、10年後には9万軒近くに急増し、ピークの昭和61年には15万軒近くになりました。

昭和35年頃、春日井市にある喫茶店のお手伝いをしている松下さん(右)

 

松下さん:「今とは違い、未経験者が喫茶店を開業する時代でしたから、お客様の喫茶店がオープンすると、コーヒーの淹れ方やパフェ・ジュースのつくり方を教えながら、3日ほどお手伝いに行ってました。お手伝いが終わって会社に帰ると、すぐ次の店へ開店のお手伝いに行く。それくらい当時はコーヒーを扱う喫茶店がどんどん増えていきました。」

特に開業支援に力を入れ、昭和50年に開設したコーヒー教室では、コーヒーの扱い方をはじめ、喫茶フード全般のつくり方も教えているそうです。こうした取り組みが名古屋を中心とする愛知県のコーヒーと喫茶文化を支えていたんですね。

 

先代から受け継いだ松屋式ドリップ

コーヒーのおいしさを追求するため、独自に開発したのが「松屋式ドリップ」という、金枠を使った抽出方法です。こちらは昭和37年に松下さんのお父さまが考案し、現在中部地区の多くの喫茶店・カフェでも使われています。

松下さん:「今ではペーパードリップは最も一般的ですが、昭和37年に初めてペーパーフィルターが現れたんです。ですが、フィルターで囲ってしまうとおいしく抽出できない、ということで父が考えました。

開発当時と今は、お客さんのレベルが違いますから、やり方(豆の挽き方・ペーパーの通り方・温度など)は変えて進化していますよ。」

淹れていただいたコーヒーは、雑味のないスッキリした味わい。豆の甘さと香りも感じられとても感動しました。松下さんが仰っていたように、時間がたっても味わいが変わらないのも特徴です。

-お父さまは、どのような方でしたか?

松下さん:「明治38年生まれの父は、とにかく厳しい人でね。絶対その日のことは、その日にやる。数字が合わなければ合うまで調べますし、翌日に仕事を残さないよう強く言われました。私は昭和39年に結婚し家庭を持ちましたが、仕事が優先ですから毎日遅くまで仕事をしていました。

一緒に仕事していたときは大変でしたが、今にして思えば父に似ているのでしょうね。コーヒーに対する情熱とか、影響を受けていたと思います。先先代から続いてきた積み重ねがあるのだと思います。」

大須本店の物販店

 

販売するコーヒー豆は60種類ほど

 

併設されたカフェルパン

 

松下さん:「ここのカフェは、平成15年大須301ビルの竣工をきっかけにオープンしました。現在カフェはここを入れて4店舗あります。大きなことは望まず、手の届く範囲でわきまえてやるよう父から言われましたので、今の店を大事にしていきたいです。」

松下さん、貴重なお話をありがとうございました。明治創業から112年、不景気や戦後の混乱、数々の危機を乗り越えられてきた松屋コーヒー。創業から変わらないのは、こだわりながら時代に合せて変化していくこと。それがコーヒーに対する情熱、長く愛される理由に繋がるのだと感じられました。

 

【松屋コーヒー CAFE LE PIN大須店】

住所  :名古屋市中区大須3丁目30-59 OSU301ビル1階
電話番号:052-251-1601
営業時間:9:00~19:30(LO19:00)
定休日 :なし
https://matsuya-coffee.com/

 

コーヒーの歴史をたどるように、明治村で保存される3つの建物を巡ることができます。

日本のコーヒー文化発展に大きな役割を果たしたブラジル移民たち。日本人移民が慣れないコーヒー栽培に従事しながら、現地産の木材で建てた「ブラジル移民住宅」(4丁目)では、苦労を重ねながら乗り越えた様子を見学できます。内部のパネル展示では、多くのブラジル移民を運んだ船「笠戸丸」の数奇な運命を知ることができます。

 

幕末の開国にともない貿易港として発展した長崎には、多くの外国人が住んでいました。明治22年に建築された「長崎居留地二十五番館」(3丁目)は、当時の典型的な居留地住宅である本館と、その20年後に増築された和室のある別館が隣接されています。当時使われた家具や装飾も再現され、居留地の生活を垣間見ることができます。

 

フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテル中央玄関内にある「帝国ホテル喫茶室」(5丁目)では、優雅な空間で味わい深いコーヒーをいただくことができます。その1杯の奥にある歴史と共に味わってみると、より一層おいしく感じられるのではないでしょうか。

 

INFORMATION

松屋コーヒー CAFE LE PIN大須店

所在地

名古屋市中区大須3丁目30-59 OSU301ビル1階

営業時間

9:00~18:30(LO19:00)

定休日

なし

電話番号

052-251-1601

料金

メニューにより異なる

公式サイトURL

https://matsuya-coffee.com/

博物館 明治村

所在地

愛知県犬山市字内山1番地

営業時間

季節により異なる

定休日

不定休※詳しくは公式HPをご覧ください

電話番号

0568-67-0314

料金

大人 2500円 高校生(要学生証) 1500円 小中学生 700円

公式サイトURL

https://www.meijimura.com

Writer

溝呂木 真弓

記者

ライター溝呂木 真弓

会社員とライターのパラレルキャリアを実践しています。夫の転勤で札幌→横浜→兵庫(大阪)→現在は名古屋在住。さまざまな街に住んだ経験から、その土地の魅力を見つけて発信するのが得意です。

ライターとして、東海エリアのウェブマガジンや企業WEBサイトでグルメ・ライフスタイルを中心に、「想い」が伝わるよう執筆しています。趣味はカフェ巡り、花の写真を撮ること、気まぐれでスイーツも作ります。