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「長浜鉄道スクエア」国内に残る最古の駅舎を見学!

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おでかけ 暮らし

2023/06/03

「長浜鉄道スクエア」国内に残る最古の駅舎を見学!

安田淳

記者

ライター安田淳

滋賀県長浜市にある「長浜鉄道スクエア」。「旧長浜駅舎」「長浜鉄道文化館」「北陸線電化記念館」の3施設から成り立ちます。

近代化を進める明治政府にとって、長浜・敦賀間の鉄道敷設は、早期に実現させるべき重要プロジェクトでした。その理由とは一体……!?施設の見学を通して、明治期のさまざまな時代背景もうかがい知ることができます。

 

鉄道でにぎわった町・長浜

敦賀線(北陸線)の起点駅として明治13(1889)年に着工、明治15(1882)年3月10日に開業した旧長浜駅(駅舎は同年11月に遅れて完成)。現存する最古の駅舎として、旧国鉄が定めた「鉄道記念物」にも指定されています。

現在はこの「旧長浜駅舎」を中心に「長浜鉄道文化館」「北陸線電化記念館」の3施設が集まる「長浜鉄道スクエア」として整備されており、見学が可能です。

「旧長浜駅舎」は当時の新橋駅(東京都)を模して造られた、木骨構造の石灰コンクリート造り2階建ての擬洋風建築。窓枠と出入口には当時の流行であったレンガが使用されています。

現在の北陸本線に沿うようにして、たくさんの石額が並べられている

伊藤博文によって書かれた「萬世永頼」の石額は、旧北陸本線の柳ヶ瀬トンネル東口(滋賀県長浜市余呉町)に掲げられていたもの。「万世(ばんせい)永(なが)く頼(たの)む」と読む。「この鉄道が世のために永く働いてくれることを頼りにする」という意味

「長浜鉄道スクエア」の入口付近に並べられている、たくさんの石額。これはかつてトンネルの出入口に掲げられていたもの。

よくよく目を凝らして見てみると、石額の字を書いているのは初代内閣総理大臣・伊藤博文、第二代内閣総理大臣・黒田清隆、鉄道院総裁の後藤新平という、明治政府の重要人物3名であることがわかります。

産業革命が起こり、いち早く鉄道を開通させた英国に遅れをとることおよそ半世紀。明治期の日本における鉄道建設は、国策の中心であったことがよく伝わってきます。

長浜・金ヶ崎間が部分開業した明治15(1882)年の鉄道図(左)と、柳ヶ瀬トンネルが開通した明治17(1884)年の鉄道図(右)

明治15(1882)年、長浜・柳ヶ瀬間、洞道口・金ヶ崎間(福井県)が開業。2年後の明治17(1884)年に柳ヶ瀬トンネルが開通し、長浜と金ヶ崎が鉄道ですべて結ばれることになります。新橋・横浜間が明治5(1872)年に日本で最初の鉄道として開通していますので、それからおよそ10年後のこと。

神戸・大津間(兵庫県・滋賀県間)、手宮・札幌間(北海道)、大橋・釜石間(岩手県)に次ぐ、5番目の鉄道開業となりました。

長浜と大津を結んでいた日本最初の鉄道連絡船「太湖丸(たいこまる)」

すでに開通していた神戸・大津間とは、ここ旧長浜駅から船で連絡していました。これは太平洋側と日本海側を結ぶ、交通網が整備されたことを意味します。明治政府が長浜・敦賀間の鉄道敷設を急いだ理由は、地図を俯瞰することでよくわかるのです。

明治17(1884)年には関ケ原間も開通し、岐阜県とも鉄道で繋がった旧長浜駅。現在は新幹線・在来線ともに米原駅を経由したルートになっていますが、当時は長浜が交通の要所であったことがわかります。

旧長浜駅舎を模して作られた、現在のJR長浜駅

「陸蒸気(おかじょうき)をひと目見たい、乗りたい」と、当時の長浜には多くの人が集まりました。旧長浜駅付近には28軒もの宿が軒を連ね、運送業や飲食業も大いに栄えたそうです。

「黒壁スクエア」のシンボルである「黒壁一號館 黒壁ガラス館」

現在も滋賀県を代表する観光地である「黒壁スクエア」を中心に、にぎわいを見せる長浜の町。「鉄道が長浜の商業と文化的な風土を育んだ」と言っても過言ではなさそうです。

 

鉄道・連絡船の起点となった旧長浜駅舎

長浜と鉄道の深い繋がりがわかったところで、実際に「長浜鉄道スクエア」を見学していきましょう。まずは施設の核となる「旧長浜駅舎」から。

内部は待合室、駅長室などが再現されており、ノスタルジックな雰囲気に浸れます。当時の記録によると、一等二等待合室にはビロード張りクッションの長椅子3脚が置かれており、八角形の釣ランプが付いていたそう。バッグや積み荷も再現されており、持ち主がひょっこり現れそう。

等身大の人形も随所に置かれており、当時の様子をわかりやすく伝えています。開業当初、長浜・敦賀間の運賃は40銭。日本酒1.8リットルが5銭だったことを考えると、鉄道運賃は相当高いものだったようです。

開業当初、柳ヶ瀬トンネルはまだ未完成だったため、滋賀県と福井県の県境を越えるために、乗客は一度汽車を降りて峠を歩かねばなりませんでした。その分、乗客は鉄道の速さやありがたさをより感じたかもしれませんね。

駅長室では、旧長浜駅の様子をCGで再現した映像を放映。ホームに入線する機関車が、汽笛を鳴らしながらこちらに迫ってきます。到着するとたくさんの乗客が機関車から降りてきました。

先述の通り、大津とは船で連絡していました。窓枠には琵琶湖と連絡船「太湖丸」がCGで映し出されています。汽車の映像は駅長室の北側、琵琶湖の映像は西側に設置されており、方角も現実に則しています。汽車を降りて、船に乗り継ぐ動線もイメージしやすいです。

現在、「長浜鉄道スクエア」は琵琶湖と接していませんが、連絡船への乗り換えが行われていた当時はもっと湖が近かったのでしょう。後から気づいたことですが、「長浜鉄道スクエア」が建っている場所は一段高くなっており、その前が港であった名残を感じさせます。

普段は非公開の2階部分を、特別に案内していただきました。

回り階段、彫刻入りの欄干など鹿鳴館調の建築様式が特徴。東京からは離れた地方都市に存在する、当時としては超モダンな建築。かなり斬新で、各方面から注目を集めたのではないでしょうか。

外見はところどころにレンガなどの素材が使われた洋風建築ですが、天井の梁を見ると木造建築であることがよくわかります。

当時の日本人は「駅」という新しい公共建築物を建てるノウハウを持つ職人が少なかったため、イギリス人鉄道技師のホルサムが設計を担当。ホルサムの監督のもと神戸の稲葉弥助という人物が工事を請け負った記録が残っています。

さて、旧駅舎の見学を終えたら改札口を抜け、隣接する「長浜鉄道文化館」へと向かいましょう。鉄道の歴史をもっと深く知る旅へと出発です。

 

鉄道ジオラマも楽しい!「長浜鉄道文化館」

旧長浜駅舎や北陸線の歴史を、より深く紹介する資料館が「長浜鉄道文化館」。2000年10月14日の「鉄道の日」にオープンしました。

駅で使われていた時計や明治期の時刻表など、貴重な資料を多く見ることができます。

旧長浜駅舎周辺をジオラマで再現したコーナーも見もの。先ほどまで見学していた旧駅舎とホーム、連絡船のりばの位置関係も改めて確認できます。また、北陸線を走った鉄道車両の模型も年代別に展示。

鉄道のおもちゃや鉄道に関する絵本などもたくさん置かれており、実は家族連れに大人気のスポットでもあります。

展示室全体を見渡せる2階には、鉄道模型のコーナーが広がっています。ボタンを押すと、列車が2方向へ自動で走り出します。

長浜駅をはじめ、長浜の町並みを細部まで再現!と、言いたいところですが、背景がなぜか大阪の街並みだったり。ちょっとユルいところも嫌いじゃありません。

そして、滋賀県民にはおなじみのスーパーマーケットが「令和堂」になっていたりと、妙なところに手がこんでいたりもします。

 

実物車両を展示!「北陸線電化記念館」

3つ目の施設は2003年にオープンした「北陸線電化記念館」。北陸線で活躍した歴史的車両「D51形793号蒸気機関車」(左)と「ED70形」(右)の2両が展示されています。この2両は施設の外からも見ることができ、「長浜鉄道スクエア」の看板的な役割も果たしています。

「D51形793号」は、「デコイチ」の愛称でも親しまれている日本を代表する蒸気機関車。

昭和17(1942)年から製造され、東北・東海道・中央・北陸の各線を昭和45(1970)年まで27年余り走行しました。力強いフォルムは今なお人気が高く、鉄道ファンならずとも惹きつけられるはず。

並行するように北陸本線の線路が走り、車庫のような位置に建っている「北陸線電化記念館」。この「デコイチ」も再びやってくる出番を待っているかのよう。今にも走り出しそうな迫力です。また、機関室に上がることもでき、貴重な鉄道遺産を身近に感じられます。

もう一両の展示車両「ED70形」は、北陸線交流電化のために造られた車両。日本で唯一、この施設にのみ現存しています。ちなみに、ボタンを押すとヘッドライトが点灯する仕掛けも!

とても貴重な車両ですが、なんと運転席に座ることも可能。運転席まわりを埋め尽くす複雑な計器類の詳細はよく分かりませんが、メカニカルな感じでなんだか萌えます。

駅員がかつて使用していた道具など、「北陸線電化記念館」にも貴重な資料が多く展示されています。特に東海道線の各駅を、歴史的な写真とともに紹介するパネルは必見。自分にとって身近な東海地方各駅の、明治期の写真はとても興味深いものでした。

2階には北陸本線の線路や長浜駅を眺められる展望デッキがあります。長浜駅の時刻表も掲示されているので、列車が通過する時間の目安もわかります。

旧北陸線停車場印帖(1,650円)。停車場印(全6種類)は各300円

さて、記念品としておすすめなのが、「旧北陸線停車場印帖」。全国のローカル線を中心に各鉄道会社が御朱印ならぬ「鉄印」を発行しており、それを集める旅が一部で流行しています。

こちらは旧北陸線で最初に開業した、滋賀県側6駅の「停車場印」。かつての面影を探しつつ旧北陸線をたどり、最後に「旧長浜駅」で「停車場印」を授与してもらう旅もマニアックながら楽しいかも!?「長浜鉄道スクエア」の受付で購入できます。

明治36(1903)年には現在の長浜駅がある場所に新駅舎が完成し、使用されなくなった「旧長浜駅舎」。水運と陸運の接続点として、太平洋側と日本側を結ぶ重要な役割を果たしました。日本の近代化に大きく貢献した鉄道の歴史を、現代に伝える新たな役割を果たしています。

鉄道好きも建築好きも大満足間違いなしの「長浜鉄道スクエア」。ぜひじっくり見学しましょう。

INFORMATION

長浜鉄道スクエア

所在地

滋賀県長浜市北船町1-41

営業時間

9:30~17:00(最終入館16:30)

定休日

12月29日~1月3日

電話番号

0749-63-4091

料金

大人300円、小中学生150円

公式サイトURL

https://kitabiwako.jp/tetsudou/

Writer

安田淳

記者

ライター安田淳

旅行やレジャー、グルメ、温泉を中心に様々なジャンルの記事を執筆し、編集もこなす名古屋在住のライター。日本全国を旅するのが最大の趣味で、旅先ではご当地のグルメや酒場、サウナ施設を求めアグレッシブに動く。
自称・スーパー銭湯研究家でもあり、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も所有。サウナ上がりの一杯を楽しみにしているため、移動は専ら公共交通機関である。