記者
ライター安田淳
2023/09/08
【メイン画像】女湯に大きく描かれた富士山
明治20年頃に開業した、名古屋市中村区の「地蔵湯(じぞうゆ)」。
現在の建物は大正時代に建てられたものですが、番台や欄間などは開業当時のものが使われており、随所に明治の趣を残しています。
「町の銭湯が姿を消しつつある」というさみしいニュースを耳にすることも多い昨今ですが、「地蔵湯」はまだまだ元気!
地域に欠かせないコミュニティの場となっています。
名古屋市営地下鉄桜通線の西の終点「太閤通駅」で下車し、地図をたよりにせまい路地をたどっていくと現れる「地蔵湯」。
一見では銭湯だとわかりづらい外観ですが、横手に回ると立派な煙突を見ることができました。
入口から男女に分かれている、昔ながらの銭湯の構造。
フォントや下駄箱が激渋でしびれます!
番台で迎えてくれたのは、5代目の松本靖子さん。
「私も古いことはよくわからないけれど、明治20年頃の開業だと聞いています。現在の建物は大正14年(1925)に建てられたもので、もうすぐ100年になりますね」と教えてくれました。
昔は別の場所に建っていたそうですが、笹島の操車場が建設されるにあたり現在の場所に移転したとのこと。
天井付近の欄間や番台、男湯と女湯を隔てる板などは開業当時のもの。
大正時代に建てられた建物ではありますが、ところどころに「明治」を感じることができます。
近所のお年寄りはもちろん、週末になると旅行者にも多く利用されるという「地蔵湯」。
近くにライブホールの「Zepp名古屋」があり、「名古屋駅から夜行バスで帰る前にひとっ風呂」という需要があるようです。
「若い方の目には、このレトロな空間が楽しく映るみたい。あと、最近は外国の方も増えましたね」と女将。
男湯の脱衣場でとりわけ年季を感じるのは、木製のマッサージチェア。
「私が小学校に入る前からあったから、もう60年以上はここに置いてあるわね。シンプルな構造だけにあまり壊れないのよ。これより新しい型のマッサージチェアもあるんだけど、そっちの方がむしろ壊れやすいくらい」と女将は話します。
「アナログがハイテクに勝ることもあるのだなあ」と妙に納得。
常連さんも含めて、古い物を大切に使い続けている証明であるとも感じました。
さて、ついつい女将との会話に夢中になってしまいましたが、浴室へと向かいましょう。
タイル地の浴槽をはじめ、いかにも「町の銭湯」という趣です。
井戸水を沸かしているそうで湯質も最高!
泡風呂や電気風呂など浴槽の種類も多く、楽しい空間が広がっていました。
なかでも印象的なのは、女湯に描かれた大きな富士山のペンキ絵!
「先代が愛知県公衆浴場組合の理事長をしていたとき、『“富士山がある”銭湯はないか』という問い合わせが多かったんです。『銭湯=富士山』のイメージがありますけどこれは主に関東の文化で、富士山を見られる銭湯はこの地方にあまりなかったんです」と女将は話します。
「ないなら作っちゃえ!」の精神で、女湯の改修に合わせて誕生したのがこの富士山。作者は女将の長女とのこと(!)
絵の細部まで目を凝らすと、お地蔵さんやアヒルの絵がかわいらしくてとても癒やされます。
ダイナミックさとユルさを同時に感じられる、銭湯という空間にふさわしい名作です。
博物館明治村では、江戸時代の湯屋の面影を残す銭湯を見学することができます。
明治末年(1910)頃に建てられた「半田東湯」です。
愛知県の知多半島の港町でかつて営業していた銭湯で、木造2階建、妻入りの町家を思わせる外観が特徴。
銭湯建築は湯水を多く使うため傷みやすく、現在でも見学できるのは貴重です。
1階奥の浴槽は男湯と女湯がつながっており、目隠しのみで仕切られています。
また、2階には男湯からのみ行くことができる、湯上り後の休憩などに使われていた部屋があります(通常は見学不可)。
銭湯は江戸時代以降、地域の社交場でもあり2階はサロンのような役割を果たしたのでしょう。
表構や番台に江戸の湯屋の面影を残す貴重な銭湯建築。
明治村を訪れたら、ぜひじっくり見学してみてください。
「『銭湯に来て、今日初めて人と言葉を交わした』なんて笑うお客さんが多いんです。今って八百屋さんもお肉屋さんも少ないから、みんなスーパーマーケットで買い物するでしょ?レジが無人のところすらありますし」と話す地蔵湯の女将。
この日も16時の営業開始を待ちきれない様子の常連さんが多数。
地域のコミュニティの場として、地蔵湯はとても賑わっていました。
所在地 |
愛知県名古屋市中村区太閤5-18-19 |
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営業時間 |
16:00~23:30 |
料金 |
中学生以上500円、小学生180円、小学生未満100円 |
公式サイトURL |
https://aichi1010.jp/page/detail/l/20 |
記者
ライター安田淳
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