記者
ライターいずのうみ
2023/01/25
明治時代に開業した日本の鉄道は、2022年にちょうど150周年を迎えました。そこで、鉄道開業150周年を記念し、各ミュージアムでは鉄道にまつわるさまざまな企画展を開催しています。
今回は、東京都文京区にある東洋文庫ミュージアムの企画展「祝・鉄道開業150周年 本から飛び出せ!のりものたち」へ行ってきました。
東洋文庫ミュージアムの魅力や企画展の見どころを、写真とともにお伝えします!
この記事は、2022年10月5日~2023年1月15日に開催されたイベントの体験レポート記事です。
東洋文庫ミュージアムは、東洋学の研究図書館「東洋文庫」内にあるミュージアムです。東洋文庫は、三菱第三代当主の岩崎久彌(ひさや)氏が1924年に設立した、日本最古にして最大となる東洋学の研究図書館で、世界5大東洋学研究図書館の一つに数えられています。蔵書数はなんと、約100万冊!そのなかには国宝5点、重要文化財7点も含まれます。
日本で一番長い展示ケース
東洋文庫ミュージアムは、多くの人にアジアの歴史や文化に興味を持ってもらうために開設され、約100万冊にのぼる蔵書の中から国宝、重要文化財などの貴重書や珍しい絵画を展示しています。館内は最新のデジタル技術や空間演出が施され、誰もが気軽に楽しめることが魅力です。
モリソン書庫
そして、東洋文庫の数あるコレクションのなかで最も有名なのが「モリソン書庫」。視界いっぱいに広がる本棚には、東アジアに関する欧文の書籍・絵画・冊子など約2万4千点も納められているとか!
これは、北京駐在のオーストラリア人G.E.モリソン博士が収集した書籍を、岩崎久彌氏が1917年にまとめて購入したものです。そのときから約一世紀の時間が経った現在、貴重なコレクションがよみがえりました。これらの書籍は、一部を除いてWebサイトから申請することで、閲覧室で読むことも可能です(閲覧室は事前予約制)。
また、東洋文庫の書誌の一部はデータ化もされており、1階に設置されているデジタルアーカイブの端末から、検索・閲覧もできます。
デジタルアーカイブ端末の画面
国宝や重要文化財の貴重な史記から浮世絵や写真まで、さまざまなデータが見られます。
東洋文庫ミュージアムで開催されている企画展「祝・鉄道開業150周年 本から飛び出せ!のりものたち」。鉄道は現代の私たちにとっては必要不可欠な移動・輸送の手段ですが、鉄道が誕生する以前はどのような方法があったのでしょうか。また、自動車も鉄道もない時代に、遠くへ行きたいときに人々はどのような乗り物を想像したのでしょうか。
企画展では、「乗り物」に焦点をあてて、本に登場した古今東西のさまざまな乗り物を見ることができます。
展示は1〜5章に分けられ、それぞれ以下のテーマでまとめられています。
・1章:日本の鉄道・幕開け
・2章:伝説・夢の乗り物
・3章:馬
・4章:船
・5章:世界のさまざまな乗り物
展示されている書籍にはユニークな解説が書いてあったり、歴史の背景や流れが解説されているパネルがわかりやすかったりと、歴史に詳しくない人でも楽しめる工夫がたくさんです!
日本人で初めて鉄道(蒸気機関車)に乗った人物、ジョン万次郎の『難船人帰朝記事』
イギリスの地下鉄を建設している様子(新聞記事)
東洋文庫は、国内外の書籍が多く保存されていることから、世界の鉄道の歴史について知ることができるのも大きな魅力です。
世界で初めての地下鉄は、イギリスの「メトロポリタン鉄道」でした。私たちが地下鉄を「メトロ」と呼ぶのも、これに由来しています。現在、地下鉄はチューブ状のトンネルを走行していますが、当初は蒸気機関車で地下を牽引していたため、煤や排煙の問題もあり「不満そうな人類の蒸し風呂」と表現されるほど不快なものだったと伝えられています。
英国人ケントによる近代中国の鉄道事業史
写真はフランスによる鉄道敷設計画図。中国で初めて鉄道の営業がはじまったのは1876年、日本で新橋ー横浜間が開業した4年後でした。上海の英国商人により開通された後、中国の鉄道は外国資本により敷設され続けました。上の図ではフランス領インドシナ連邦の首都・ハノイと雲南省を結ぶ計画が描かれています。
中国の絵入新聞「点石斎(てんせきさい)画報」
19世紀末の中国で発行された絵入り新聞「点石斎画報」では、国内・国外問わず幅広い話題を扱っていて、鉄道に関する記事もいくつかあったようです。上の絵は、一見すると鉄道の前に植物や花が美しく描かれているようですが、手前の細かいものはよく見ると全部イナゴ!
「サンフランシスコでは夏から秋にかけてイナゴが大発生し、鉄道が通行できなくなる」という内容が記録されています。
次の展示室へ続く「回顧の路」
2〜5章の展示が行われる「企画展示室」へ行くには、展示物を保護するため照明を極限まで落とした通路「回顧の路」を通ります。このとき、床面に施された「クレバス・エフェクト」という仕掛けも必見です!
真上から覗き込んだ様子。
クレバス・エフェクトは、2005年に開催された愛・地球博の三菱未来館@earth「もしも月がなかったら」でも使われた技術です。上から覗き込むと、どこまでも落ちてしまうような深さに見えますが、実際の深さは10cmほど。高所恐怖症の人でも安心して渡れますよ。
回顧の路を抜けると、企画展示室に着きます。ここでは、伝説や空想で描かれた生き物から、人の暮らしに欠かせない存在である馬や船など、さまざまな「乗り物」が見られます。
見るからに重そうな分厚い本は、旧約聖書と新約聖書をドイツ語に訳し、一冊にまとめた絵入りの聖書です。旧聖書に登場する「ノアの方舟」の外観や内部構造についても描かれているため、ノアの箱舟がどのようなものかが具体的にわかります。
中国の書籍では、仙人たちが龍や鳥のほか実在しない生き物など、さまざまなものに乗って移動している様子も描かれています。
子どものころに、雲に乗って遠くへ行ったり、好きな場所へ運んでくれる自分だけのキャラクター・乗り物を思い描いたりしたことがある人も多いのではないでしょうか。
そして、鉄道や車が開発されるはるか昔から人の移動や生活を支えてくれた馬や、人類最古の乗り物と言われている船についてもスポットをあてています。
ロシアの艦隊司令官プチャーチンの船が沈没した後、日本人が造船した戸田(へだ)号
左から「ブロードウェイ遠征隊」「英仏連合軍のタークー砲撃図」「船の歴史 蒸気船」
これらのほか、中国や日本で使われた天皇を乗せる御輿・鳳輦(ほうれん)や砂漠の移動には欠かせないラクダ、雪原で大活躍する犬ぞりなど、それぞれの地域の歴史や環境、文化によって生まれたユニークな乗り物についての展示も行われています。
当時の記録や書籍に描かれているさまざまな乗り物を見ていると、乗り物の進化とともに人々の世界が広がり、文明も大きく発展してきたことを改めて感じました。
知恵の小径
ミュージアム見学の前後には、食事や軽食が楽しめる洋風レストラン「オリエント・カフェ」、自然に癒やされる「シーボルト・ガルテン」もおすすめです。
ミュージアムとオリエント・カフェとをつなぐ屋根付きの通路は「知恵の小径」と呼ばれ、アジア各地の名言が原語で刻まれたパネルが並んでいます。
「人生に学び終わりなし 月日を無為に送ることなかれ」(ナシ語-中国西南部)
「智者はおだやかに言い、人を伏す 黄河はゆるやかに往き、人をのせる」(西夏語)
アジア各地の言語の下には、うっすらと日本語訳も!格言にはその地域の文化や歴史が色濃く反映されていることもあり、一つひとつじっくりと読みたくなりますね。
知恵の小径を抜けると「オリエント・カフェ」です。岩崎久彌氏は小岩井農場の経営者でもあったことから、東洋文庫と小岩井農場が共同でプロデュースして洋風レストランを作りました。
「安全・安心・素性明らか」な厳選された食材にこだわった上質な料理が味わえます。また、店内では小岩井農場直送の野菜や果物、小岩井農場ブランドの食品なども購入可能です。
オリエント・カフェの目の前の中庭は「シーボルト・ガルテン」。小岩井農場から移植された一本桜が見られるほか、東洋文庫が所蔵する最も著名な博物図鑑の一つ、シーボルト『日本植物誌』に掲載される実物の木々や花々も庭園のあちこちに植えられています。
食事を楽しみながらのんびりと中庭を眺めるのも、有意義なひとときになりそうです。
夕方以降はライトアップされる「知恵の小径」
東洋文庫は都心にありながら、日本最古にして最大の東洋学研究図書館です。東洋文庫ミュージアムでは国宝や重要文化財などの貴重な蔵書を見ることができるほか、さまざまな企画展も開催されています。
「祝・鉄道開業150周年 本から飛び出せ!のりものたち」は2023年1月15日まで。※企画展は終了しています。
ミュージアムショップでは、多彩な東洋文庫オリジナルグッズを販売中!
【東洋文庫ミュージアム】
企画展開催期間:2022年10月5日(水)~2023年1月15日(日)※企画展は終了しています。
所在地 |
東京都文京区本駒込2-28-21 |
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営業時間 |
10時〜17時(入館は16:30まで)※当面の間 |
定休日 |
火曜日(火曜日が祝日の場合は開館し、翌平日が休館)、年末年始、※その他臨時に開館・休館することがあります。 |
電話番号 |
03-3942-0280 |
公式サイトURL |
http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/ |
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