記者
ライターいずのうみ
2022/12/05
家族や友人とにぎやかにビールや食事が楽しめるビアホール。現在では気軽に楽しめる飲食店の一つですが、ビアホールという飲食店の形態は、明治時代に生まれたことはご存知でしょうか。
日本初のビアホールは東京の銀座に開かれ、当時から多くの人に親しまれていました。現在その建物はありませんが、昭和初期から姿を変えずに営業を続けている「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」が現存する日本最古のビアホールとされ、世代を超えて愛され続けています。
今回は、ビアホールの歴史や現存する日本最古のビアホールについて、ご紹介します。
恵比壽ビヤホールの外観
明治32年(1899年)8月4日、日本麦酒株式会社(後のサッポロビール株式会社)が東京の銀座8丁目に「恵比壽ビヤホール」を開店。これが、日本で初めて「ビヤホール」の名称が使われたお店となりました。
ビアホールの目的は、当時恵比寿で造られていた「恵比寿ビール」を工場から直送し、ビールのおいしさを知ってもらうこと。お店の内装やデザインも当時では斬新だったこともあり、「恵比壽ビヤホール」は大きな話題を呼びました。
当時の恵比寿ビールのジョッキ
「恵比壽ビヤホール」では、ビールはガラス製ジョッキ0.5リットルで10銭で販売されていました。当時の紡績・織物工場で働く女性の1日の賃金が20銭ほどであったことから、ビールは決して安い金額ではありません。しかし、開店3日でおよそ900リットル、1週間後には1日に1000リットルも売れる日もあったといいます。この人気ぶりが広く伝わり、遠方から足を運ぶ人も大勢いたほど好評でした。
東京風俗志でもビアホールが紹介されている。
(出典:国立国会図書館デジタルコレクション『東京風俗志(中)』)
「恵比壽ビヤホール」がきっかけとなり、東京の市内や地方都市でも次々とビアホールが開店。大きなブームを生み出したビアホールは、ビールが大衆の人に親しまれる大きなきっかけの一つとなったのです。
恵比壽ビヤホールの店内
現在でも、初めてビアホールが誕生した日を記念し、毎年8月4日は「ビヤホールの日」に制定されています。
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」の外観
日本初のビアホールとなった「恵比壽ビヤホール」は現在はありませんが、当時の場所のすぐ近くに、現存する日本最古のビヤホール「ビヤホールライオン銀座七丁目店」があります。
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」が開店したのは昭和9年(1934年)。それ以降、90年経った現在も当時のままの姿を残しています。ガラスモザイクの巨大な壁画や、大麦を表現した柱、大理石を使ったカウンターなど、贅を尽くした店内は「ビアホール建築の一大傑作」と評されるほど。一歩店内に入ると、レトロで荘厳な非日常の空間が広がります。
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」の内観
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」がある「銀座ライオンビル」は2022年2月に、国の登録有形文化財(建造物)に指定されました。
「豊穣と収穫」をコンセプトとした店内には、建築家や創健社のこだわりが随所に見られ、貴重な建築物として鑑賞するのも楽しみ方の一つです。特に注目したいポイントを紹介します。
店内に入るとまず目を引くのが、正面に飾られたガラスモザイクの大壁画。縦2.75メートル、横5.75メートルもあり、大麦の収穫をするギリシャ風コスチュームを着た婦人たちが描かれています。中央には愛や平和を象徴する「アカンサスの花」が描かれ、遠くに見える煙突は恵比寿のビール工場なのではないか、と言われています。
遠くに描かれている煙突の真相とは……?
この巨大な壁画には250色ものガラスモザイクが使用されていますが、これらの色を出すために46,000色ものガラスモザイクが作られ、3年の歳費を費やしたと言われています。
ガラスモザイクの大壁画のほかにも、柱や照明、左右の壁画も注目したいポイントです。
ホールの左右に並ぶ太い柱には、緑のタイルと天井に伸びる矢じり型の装飾がされています。これは、ビールの原料となる「大麦」をイメージしたもの。
店内を彩るシャンデリアは、葡萄の房をモチーフにしています。また、ほかの照明に使われているガラスはビールの泡をイメージした水玉模様が装飾された電球は創建当時のもの。清掃やメンテナンスの際に割れてしまうと、二度と手に入らない貴重なガラスです。
いくつもの丸が重なり合うかわいらしいデザインは、時代を超えてもオシャレ。
そして、店内の赤レンガの壁は「豊かな実りをはぐくむ大地」のカラー。点在する壁画にもモザイクガラスが使われています。また、窓のある面の壁画は窓際に飾られる花瓶や花が四角く描かれ、窓のない面には教会や大聖堂のステンドガラスのような形が採用されています。
窓のない面の壁画は華やかさを出すために大きく描かれているそう
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」を手掛けた建築家の菅原栄蔵氏は、創建にあたり日本の材料を使うことにこだわりました。天井には伊豆七島・新島の抗火石が使われ、柱や壁のタイルは愛知県瀬戸市で作られたものです。
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」は、おいしいビールと料理が楽しめるため、長年愛されているお店です。なかには3世代にわたり利用してくれる常連さんも少なくないとか。
おいしいビールの秘訣や、ビールにぴったりなおすすめメニューを紹介します。
「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」では、ビールを提供する際には伝統の「一度注ぎ」にこだわっています。通常はビールと泡を2度に分けて注ぎますが、お店ではタップを開けたら注ぎ終わるまで締めることなく、勢いよくグラスへ注ぎます。
一度注ぎにする理由は、グラスの中でビールが回転することで余分な炭酸が抜け、雑味が閉じ込められるため。これにより喉越しがよくなり、泡の口当たりも柔らかになります。
ビヤホールの煮込み 1,188円
じっくりとていねいに煮込まれた「ビヤホールの煮込み」。濃厚な旨みと柔らかい牛すじが、ビールのキレとよく合います。
ビヤホールソーセージ 990円
ビールにぴったりなおつまみの定番、ソーセージ。北海道産豚肉の旨みがたっぷり詰まっていて、特製マスタードとの相性も抜群。グループで楽しむなら5つの種類が楽しめる「ビヤホールのソーセージ盛合せ」もおすすめです。
ビヤホールのカリーブルスト 1,210円
ビール王国・ドイツで愛されている郷土料理の一つ、カリーブルスト。ソーセージやポテトにスパイシーなカレーソースとケチャップ、すべてビールにぴったりな材料が組み合わさった間違いなしのメニューです。ビールが進むだけでなく、食べごたえも抜群。
明治時代に誕生し、多くの日本人に愛されてきたビアホール文化。現在では日本全国にビアホール・ビアレストランがあり、日々にぎわいを見せています。
日本で初めてのビアホールとなった「恵比壽ビヤホール」のお店はもうありませんが、現存する日本最古のビアホール「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」で、昔の時代に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
ビヤホールライオン 銀座七丁目店
https://www.ginzalion.jp/shop/brand/lion/shop1.html
明治の中にはいくつもの飲食店があり、食事とともにビールや日本酒などのアルコール類が楽しめます。牛鍋や洋食など、明治時代に生まれた料理に合わせられるほか、明治時代に生まれた日本初のカクテルが味わえる「デンキブラン汐留バー」もおすすめですよ。
▼インフォメーション
公式サイトURL |
https://www.ginzalion.jp/shop/brand/lion/shop1.html |
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ライターいずのうみ
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