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里帰り中の「名電1号形」が今秋、第ニの故郷・札幌へ

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明治村ガイド 歴史

2023/08/19

里帰り中の「名電1号形」が今秋、第ニの故郷・札幌へ

安田淳

記者

ライター安田淳

明治31年(1901)に愛知県名古屋市で製造され、明治40年代まで名古屋市内を走っていた「名電1号形(旧名古屋電気鉄道第1号電車)」。
大正7年(1918)に札幌電気軌道がこれらの車両を購入し、昭和11年(1936)頃まで札幌市民の足として親しまれてきました。

現存している「名電1号形」の唯一の車両は、ただいま故郷である愛知県に里帰り中。
博物館明治村2丁目の「レンガ通り」の入口付近で会うことができます。

そして2023年秋、「名電1号形」は第二の故郷である札幌市に帰ることが決定。
名古屋・札幌の歴史を見つめ続けた貴重な鉄道遺産に、愛知県でふれることができる期間も残りわずかとなっています。

 

名古屋・札幌で活躍した
「名電1号形」

開村50周年記念事業の一つとして、2017年から明治村で期間限定公開されている「名電1号形」。
札幌市交通局から借り受ける形で、およそ100年ぶりに愛知へと戻ってきました。

札幌からは海路(太平洋フェリー)と陸路経由でいったん大阪にある工場に運ばれて整備されたのち、明治村へとやってきたそうです。

「名電1号形」に描かれている「名古屋電気鉄道」の社章

名古屋鉄道(名鉄)の前身である「名古屋電気鉄道」は、明治31年(1898)に電気軌道※を運行開始。
これは京都に次いで2番目となります。

後ほど紹介しますが、国内で一番早く運行を開始した「京都市電」は今も現役で明治村村内を走っており、乗車体験もできます。

※電気を動力として用いる鉄道。

名古屋市民の足として活躍した26人乗りの「名電1号形」ですが、乗降数の増加に伴って次第に予備車両となっていきます。
人の往来が盛んで、路面電車が行き交い、にぎやかだった往時の名古屋の風景が目に浮かぶようです。

予備車両に位置づけられることが多くなった「名電1号形」は、大正7年(1918)に運行を開始することとなった札幌電気軌道に譲渡されることに。
「名電1号形」は札幌で第二の人生を送ることになるのです。

大正7年(1918)8月1日から開催された「開道五十年記念北海道博覧会」に合わせ、同月12日に札幌市内に南一条線、停公線、南四条線の三路線が開業。
札幌の市街電車は、博覧会を訪れる人々の輸送も担いました。

昭和2年(1927)には札幌市へ電車事業が受け継がれ「市電」となるなど、数々の変遷をたどりながら札幌市民の足として愛された「名電1号形」。
昭和11年(1936)頃まで、札幌の街を走り続けました。

もともとは「29号」として活躍していたが、運転可能に整備された際に車籍を復帰。「22号」に改番となった。

唯一現存する「名電1号形」(現在展示されている車両)は、昭和26年(1951)に札幌市円山動物園が開園した際、園内に展示されていました。
その後、別の形の車両の部品を利用して動けるように整備され、イベントなどで数回運転されたとのこと。
明治村にやってくる前は、札幌市交通資料館で静態保存されていたそうです。

車両の前後にある運転席も見学できる。英字のフォントもレトロだ。

現在では「つり“革”」と名前だけが残っているが、もともとは実際に動物の革が使われていたことに気づかされる。

名古屋から札幌へと譲渡されたのが大正7年(1918)のことですので、「名古屋の街を走る名電1号形を見た」という年代の方は、少なくなっていると思われます。
一方で札幌時代の「名電1号形」を、懐かしく思う世代はまだまだ多いはず。

札幌へ戻ったあとも「名電1号形」が大切に保存され、日本の鉄道の歴史や記憶を紡いでほしいと願うばかりです。

 

明治村内を走る「京都市電」との奇跡のコラボ

感慨に浸っていると「名電1号形」の運転席から、カタコト走る「京都市電」の姿を発見!

先述の通り、日本で最初に開通した「京都市電」(開通当時は京都電気鉄道)と2番目に開通した名古屋電気鉄道の車両が対面する、奇跡的な光景です。

明治村内の「市電京都七条駅」に到着する京都市電

「京都市電」は明治28年(1895)、現在の京都駅近くから伏見までの約6.4kmの間で開業。
同年4月から岡崎公園で開催された「第4回内国勧業博覧会」の会場輸送を担いました。

現在明治村で動態展示されている車両は、明治43年から44年(1910~1911)にかけて製造された大型の車両。
明治45年(1912)に開通した、北野線を走行していたそうです。

「市電品川燈台駅」付近に広がる入鹿池の風景。本来の「京都市電」の車窓にはなかったであろう雄大な光景だ。

折り返し地点となる「市電名古屋駅」「市電品川燈台駅」ではトロリーポールを外し、逆向きに付け替える作業を行う。昔ながらの鉄道業務を見学できるのも大きな楽しみ

「京都市電」は明治村内の「市電品川燈台駅」から途中「市電京都七条駅」に停車し、SLに乗り換えが可能な「市電名古屋駅」間を結んでいます。

乗務員の村内案内や車両の説明に耳を傾けながら、当時と同じくらいの速度でゆっくりと走る「京都市電」にしばし揺られます。

100年以上前に製造された電車に乗車する、貴重すぎる体験!広い村内を楽しみながら移動できる点も大きなメリットです。

今秋に第二の故郷・札幌に帰ることになった名古屋生まれの「名電1号形」。
博物館明治村での展示期間は、いよいよ残すところわずかです。
特に日本最古の電気軌道である、「京都市電」とのコラボレーションは見納めとなってしまうかも!?

これを機に、ぜひ鉄道遺産にあふれる博物館明治村へ足を運んでいただきたいです。

※「名電1号形」の展示は、2023年9月3日(日)を持ちまして終了させていただきました。

INFORMATION

明治村・京都市電乗車体験

所在地

愛知県犬山市字内山1 博物館明治村内

料金

【片道】大人500円・小学生300円【SL・市電一日券】大人1000円・小学生700円

運行時間

公式HPを確認

公式サイトURL

https://www.meijimura.com/timetable/

Writer

安田淳

記者

ライター安田淳

旅行やレジャー、グルメ、温泉を中心に様々なジャンルの記事を執筆し、編集もこなす名古屋在住のライター。日本全国を旅するのが最大の趣味で、旅先ではご当地のグルメや酒場、サウナ施設を求めアグレッシブに動く。
自称・スーパー銭湯研究家でもあり、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も所有。サウナ上がりの一杯を楽しみにしているため、移動は専ら公共交通機関である。