記者
ライター安田淳
2023/09/26
明治40年(1907)創業の老舗居酒屋「大甚本店」。
名古屋の一大ビジネス街・伏見で、100年以上営業を続けています。
「居酒屋の最高峰」など全国から称賛の声を浴びている、まさに名酒場のなかの名酒場。
昭和レトロな雰囲気に浸りながら、旨い酒と肴を楽しむことができます。
広島県西条の酒蔵「賀茂鶴」の看板を大きく掲げている「大甚本店」。
名古屋でも有数のビジネス街・伏見に位置しており、全国屈指の名酒場として各地から酒場ファンが訪れます。
今回お話をうかがったのは、四代目の山田泰弘さん。
「創業者である曽祖父は、もともと愛知県津島の出身でした。かつて津島に『大甚』という酒蔵があったようで、うちの店名の由来になっているんです。名古屋に移ったのは、明治40年(1907)と聞いています」と教えてくれました。
三代目の山田 弘さんも店頭に立ち続けています。燗をつけるのは主に三代目のお仕事。
もう70年以上使い込んでいるというかまどの中で、じっくりと徳利を温めます。
かまどを用いることで温度が均一になり、酒のおいしさがより際立つのだとか。
創業当時の建物は昭和20年(1945)の名古屋大空襲で焼失し、現在の建物は昭和29年(1954)に建て直したもの。
壁や床、テーブルは当時のままで、この空間だけ時間の経過が止まっているかのよう。
ノスタルジックな気分に浸ることができます。
「大甚本店」と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、この「セルフ式の小皿料理」。
台を埋め尽くさんばかりに小皿がのせられ、思わず目移りしてしまいます。
三代目が「学食」からヒントを得て、昭和38年(1963)ごろからはじめたとのこと。
「昔から伏見は銀行や繊維関係の会社が多い街だったんですが、当時この辺の居酒屋と言えば、うちとチェーンの居酒屋数軒くらいしかなくて……。単純に手が回らなかったのでしょうね」と、セルフが定着した理由について話す四代目。
「大甚本店」は巨大ビジネス街の“飲み需要”の多くを担っていたのですね。
平日・週末問わず混み合うことが多い人気店ですが、待たずにおいしい肴にありつけるという点でも理にかなったシステムだと筆者は感じます。
仕込みは大変そうですが。
並んでいる小皿料理はすべて素材にこだわり、店頭で手作りされたもの。
ビールや日本酒の供として、これ以上ないほど最高のラインナップです。
「煮物や和え物などが中心で奇をてらった品はありませんが、シンプルで飽きが来ないのだと思います」と四代目。
なかでも創業当時からある名物的な総菜が、「いわしの煮付け」と「鶏の旨煮」のふたつだといいます。
「いわしの煮付け」は程よい甘さとキリッとした醤油の味わい、生姜の風味を感じる逸品。
よく煮込んでいるためか、骨まで柔らかく仕上がっています。
「鶏の旨煮」は、キンカン(卵が形になる前の黄身の部分)の「プチッ」とした食感が楽しい一皿。
コク深い味わいで、思わずお酒が進む!
刺身のおいしさも折り紙付き。名古屋の柳橋中央市場などに毎朝足を運び、長い付き合いの卸から、新鮮な魚を仕入れています。
さて、全国でも屈指の名酒場として称賛の声が絶えない「大甚本店」ですが、コロナ禍の影響は避けられなかったといいます。
現在の活気にあふれた店内の風景からは想像もつきませんが、来店客が10人に満たない日もあったそう。
そんな状況のなか「次の100年に繋ぐ」ために意を決し、クラウドファンディングを募った四代目。
結果として700万円以上が集まったというから驚きです。
この店が多くの人にとって、なくてはならない存在であることが伝わってきます。
「うちはコロナ禍で成長できたのかもしれない」と最後に語ってくれた四代目。
小皿料理のほかに揚げ物メニューをはじめたり、ドリンクの種類を増やすなど新たな魅力も加えています。
もともと「硬派な酒場」というイメージもあった同店ですが、最近は女性客も増えているそう。
時代の変化に合わせてしなやかに進化を続け、明治から令和まで「酒場のスタンダード」であり続ける「大甚本店」。
老舗の雰囲気を大切にしながら、さらに100年後を見据えている四代目の姿が強く心に残りました。
所在地 |
愛知県名古屋市中区栄1-5-6 |
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営業時間 |
15:45~21:00(LO20:30)、土曜 ~20:15(LO19:30) |
定休日 |
日曜・祝日 |
電話番号 |
052-231-1909 |
公式サイトURL |
https://www.daijin1907.com/ |
記者
ライター安田淳
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