記者
ライター安田淳
2021/08/23
「椅子」ってほかのインテリアと比較しても、特殊なものです。
人間工学に基づいた無駄のないフォルムや美しい色彩は観るものを魅了し、芸術作品として捉えられることもしばしば。
椅子をフィーチャーした美術館の展示や、熱心なコレクターも多く存在しています。
博物館明治村にも、歴史を映し出すデザイン性に富んだ椅子が多く収蔵されています。順にご紹介していきましょう。
※常設展示を行っていない椅子も含まれます。
こちらの竹塗り小椅子は、かつて「鹿鳴館」で使用されていたもの。鹿鳴館とは明治政府の欧化政策の一環として建てられ、ダンスパーティーなど外国との社交場として使用された建物です。
竹の節目などを精巧に模し漆塗りが施された部分。貝殻が織り交ぜられ光に反射しキラキラと輝く蒔絵(まきえ)など、椅子というよりは芸術品。
実はこの椅子、明治村にやってきた際には現在の姿とはまったく異なるものでした。
展示するにあたって明治村の職員が細部を観察するとなんと赤茶色のペンキが塗られており、その下に華麗な蒔絵を発見したのです。
確たる証拠はないのですが、この椅子は戦後まもなく連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に接収された過去があり、その際にペンキを塗られてしまった可能性が拭いきれません。
当時の欧米人の感性には合わなかったのかもしれませんが、もし事実だとすると悲しいことですね。
なにはともあれ、ペンキが塗られていることに明治村職員が気づき、剥がしてみたところ……。元来の優美な姿が表れたわけですから、みな驚いたことでしょう。
歴史の荒波に揉まれた、とても波乱万丈なエピソードを持った一脚です。
※現在、この竹塗り小椅子は常設展示を行っていません。
昭憲皇太后(明治天皇の皇后)、および限られた身分の方しか使うことができない小葵の文様が描かれた一脚。
折り畳むことができることから常設されたものではなく、行啓などの際に携行したものと考えられるものです。
小葵や鳳凰などのモチーフを伝統的なものにだけ用いるのではなく、洋家具にも取り入れたことで和と洋の垣根を取り払うような特有の美しさが生まれたのです。
※現在、鳳凰幸菱蒔絵折畳椅子は常設展示を行っていません。
皇太子(のちの大正天皇)のために建てられた「東宮御所(現 迎賓館赤坂離宮)」の、朝日之間に置かれた一脚。
朝日之間は東宮御所のなかでももっとも荘厳な空間であったようです。謁見室(えっけんしつ)としての役割があり、海外からの賓客との会談の場として設計されました。
そんな朝日之間で使用されていたこの椅子は、金色を基調として威厳を感じさせる一方で直線的で装飾が少ないのも特徴。いわゆる「ルイ16世様式」が取り入れられており、「質実剛健」といった印象を与えています。
背の部分には、菊の御紋が織り出されています。
※現在、この肘掛椅子は常設展示を行っていません。
現在、明治村の3丁目に移築されている「芝川又右衛門邸」(明治44年建設)。この建物の設計者は当時京都高等工芸学校図案科主任で、後に京都帝国大学建築学科の創設者となる武田五一です。
芝川邸とともに明治村にやって来たこの椅子も武田五一によるデザインとされていますが、確かな記録が残っておらず詳細はわかっていないそうです。いずれにせよ、このモダンな住宅にマッチするこの椅子を武田五一がセレクトしたことには違いなく、時代の先端をゆく鋭い感性が読み取れます。
曲線美に富んだしなやかなフォルムと包み込むような安定感、ウィーンのゼツェッションを意識した装飾など、現代の住宅にも違和感なく馴染みそう。まさにグッドデザイン!
写真のこの椅子は現在、学習院長官舎(1丁目)で展示されており、1日に1~2回開催されているガイドツアーに参加することで間近に鑑賞することができます。
また、芝川邸内には、同邸のホールやサンルーム、庭で使用された家具を展示しており、インテリア好きなら建物ガイドに参加するのもおすすめです。
最後にご紹介するのはフランク・ロイド・ライトが設計した、帝国ホテルで使用されていた椅子です。「孔雀の間」と呼ばれる宴会場で主に使用されていたことから「ピーコック(=孔雀)チェア」とも呼ばれています。
六角形の背もたれ、隅を切った四角形の座面が美しく、現代人の感覚からしても洗練された印象を受けるのではないでしょか。
皮革ではなく当時最先端の素材であったビニールレザーを使用している点からも、トレンドを意識していることがわかりますね。
余計なものを削ぎ落としたデザインは、画期的であると同時に当時を生きた人の目には近未来的にさえ映ったかもしれません。
こちらの椅子には「帝国ホテル中央玄関」(5丁目)で出会うことができますよ。
所在地 |
〒484-0000 愛知県犬山市内山9 |
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公式サイトURL |
https://www.meijimura.com/sight/帝国ホテル中央玄関/ |
記者
ライター安田淳
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