記者
メイジノオト編集部
2023/11/20
奈良の人気観光地・奈良公園から徒歩で約5分ほどの位置にある「奈良ホテル」。かつて興福寺の塔頭(たっちゅう:境内の小寺)・大乗院があった跡地の小高い丘に、明治42年(1909年)に建てられた歴史深い宿泊施設です。
国道169号(天理街道)沿いの入り口から玄関までのアプローチは、美しい緑に囲まれた癒しの空間。
敷地内には「名勝 旧大乗院庭園」もあり、滞在中に散策も楽しめます。
今回は、明治時代の趣と歴史が色濃く残る奈良ホテルの魅力をたっぷりご紹介します!
明治42年(1909年)に建てられた奈良ホテル本館は、110年以上の歴史を紡いできました。
本館の設計は、日本銀行本店や東京駅丸の内駅舎を手掛けた近代建築の巨匠・辰野金吾氏。瓦葺き建築で、内装は桃山風の豪奢・華麗な意匠があちこちに施されているほか、高級木材の「ひのき」を使って造られていることが特長です。
大正〜昭和時代にかけては「関西の迎賓館」とも呼ばれ、迎賓館に準ずる施設として利用されていました。過去には世界的に著名なエドワード英国皇太子、アルベルト・アインシュタイン、ヘレンケラー女史をはじめ、各皇族方や当時の首相の多くも来館しています。日本を代表するクラシックホテルの一つとして名高い奈良ホテルでは、現在でも皇族の奈良宿泊の際に利用されることが多くあるようです。
エントランスを抜けると左手にフロントがあり、吹き抜けから差し込む自然光が館内を明るく照らします。
本館の客室は1階・2階と合わせて62室。迎賓館として多くの著名人が宿泊した客室は、隅々にまで歴史と伝統を感じられます。本館には客室の他にもティーラウンジ・バーやホテルショップ、ロビー、ダイニングルームなどの施設があります。
奈良ホテルの館内は、宿泊者ではなくても見学自由とのこと。文化財的価値が高い家具や調度品、美術品などが点在し、見ているだけでも楽しめます。和洋折衷で豪華絢爛な空間で、明治時代にタイムスリップした気分に浸ってみてはいかがでしょうか。
本館1階、正面の奥にティーラウンジとバー「ザ・バー」があります。奈良公園側に面したティーラウンジは、天井まである大きな窓から四季折々の風景や古都の風景を見ながら、パティシエ特製のオリジナルケーキやこだわりの紅茶・コーヒーなどが味わえます。
ティーラウンジで提供している紅茶・ハーブティーは、1823年に設立されたドイツの最高級老舗ブランド「ロンネフェルト社」のもの。紅茶の国イギリスだけでなく、世界中のセレブから愛され続けている紅茶は、世界でも認められた品質です。
夕方18時からは、ティーラウンジがザ・バーとして営業します。世界の銘酒やジャパニーズウイスキーがそろうクラシックなバーです。
ランプに灯る明かりに照らされた大人の空間では、「万葉美人」「マントルピース」など、奈良ホテルのオリジナルカクテルも味わえます。
宿泊者が自由に過ごせるロビー「桜の間」には、奈良観光やホテルの歴史にまつわる本が置かれたライブラリーをはじめ、明治時代から残る調度品や貴重な展示物なども見られます。
アインシュタインが実際に弾いたピアノや、上皇上皇后両陛下がご来館の際に「伝統の奈良ホテルにふさわしい置物」とおっしゃった大時計、当時のまま残されているマントルピース(暖炉)、戦時中に滞在したラウレル大統領の胸像など、奈良ホテルでしか見られないものばかり。大時計は現在も定期的に音楽が流れ、宿泊者からも好評を得ています。
現在でも高いデザイン性を感じられる照明もあり、当時の奈良ホテルの内装に極力近い形で保存されています。
ホテルのオリジナルグッズや奈良の名品が購入できるホテルショップです。ティーラウンジで提供している紅茶葉やコーヒー豆のほか、奈良漬け、奈良ホテルのバスマットなどオリジナルグッズも充実しています。
一枚一枚ていねいに焼かれたクッキーが詰め合わせとなったクッキー缶やオリジナルカレーの缶詰が人気です。
創業以来、姿を変えることのないメインダイニングルーム・三笠。名画や調度品が設えられた重厚華麗な空間で、歴代の料理長から受け継いできた伝統のフランス料理が味わえます。奈良の名産品や旬の食材を使った独創的な料理に思わず舌鼓をうつでしょう。
宿泊者でなくても利用できるため、格式高い空間で特別な人と「非日常」を体験してみては。
空間を明るく照らすシャンデリア・ペンダントは、大正11年(1922年)にエドワード皇太子が来館する際に新調されたと言われています。
※朝食について、土日祝は宿泊者優先、平日のみ前日までの予約制
奈良ホテルの館内には、いたるところに建築当時から残る家具や照明器具、価値の高い絵画などが飾られています。特に目を引くのが、玄関の吹き抜け・大階段の天井に飾られている和風シャンデリア。春日大社の釣燈籠を模したデザインで梁に直接固定されていて、創業当時から館内を照らし続けています。
玄関の脇にある鳥居とマントルピースが組み合わさった調度品は、日本とドイツの和洋折衷様式で建てられたホテルのシンボル的存在。辰野金吾氏が和洋折衷をイメージしてデザインしたと言われています。
横には明治から昭和の時代にかけて人気を博した美人画の画家・上村松園の絵画『花嫁』も飾られており、とても価値が高いのだとか。
館内には、明治・大正時代の画家の作品をはじめ、あちこちに絵画が飾られていて、まるで美術館のようです。
また、奈良ホテルの歴史にまつわる展示品も点在しており、歴史の長さを改めて実感できます。
奈良ホテル本館には、1階・2階合わせて62の客室があります。隅々にまで歴史と伝統が感じられ、関西の迎賓館でのノスタルジックでぜいたくなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
部屋のグレードは「スイート・デラックス」「デラックス」「スタンダード」と3つあり、それぞれの部屋でコンセプトや趣も異なります。2017年より約3年かけて行われた耐震補強工事で、当時の姿を残しながらもより洗練され格式高い客室へと生まれ変わりました。
写真の「デラックス・クラシック」は、格天井に御簾、正倉院文様の宝相華をデザインした絨毯など、創業時の雰囲気を色濃く残す特別な部屋。そのほかの部屋も、高い格天井(ごうてんじょう)やクラシックな照明器具、日本画など、調度品の一つひとつにも歴史が息づいています。創業当時のマントルピースが残されている部屋が多く、くつろぎながら明治時代に思いを馳せてみるのも良いでしょう。
奈良ホテル本館と隣接している新館は、昭和59年(1984年)に建築されました。奈良県の吉野地方で独特の傾斜地を利用した建築様式「吉野建て」を採用しており、本館1階と新館5階が同じ高さとなっています。
パーティーなどが行える新館5階のテラスガーデンからは、奈良の街が一望できます。夏の時期にはビアテラスが開催され、美しい景色を眺めながら、シェフこだわりの料理と多彩なビールが楽しめますよ。
小高い丘に建つ奈良ホテルからの眺望は抜群!一面ガラス張りの日本料理レストラン「花菊」からも美しい景色が見られます。
新館のロビーには、奈良ホテルの歴史にまつわる食器や調度品が展示されており、ゆっくり眺めるだけでも楽しめます。
ガラスケースの中には創業時のカラトリーがずらり。銀製のフォークやスプーン、ナイフには鉄道院や鉄道省のロゴが刻印されていて、灯籠は塩・胡椒入れやマスタード入れとして使われていたようです。
昭和15年(1940年)に、日本政府観光局と鉄道省が作ったオールドノリタケ製のスーベニアプレート。日本を象徴する富士山と桜が描かれ、海外の賓客などに記念品として配布されました。
奈良ホテルは、創業当時は大日本ホテル株式会社が経営していましたが、1913年に鉄道院の直営となり、その後は営業主体が何度か変わっています。そのため、奈良ホテルの歴史には鉄道院・鉄道省の存在が欠かせません。鉄道院は、運輸省、国土交通省、およびJRグループの前身にあたる国家行政機関の一つ。現在は西日本旅客鉄道株式会社が100%出資し、奈良ホテルの伝統と歴史を継承しています。
新館の客室は全室が緑豊かな中庭に面しており、まるで森の中にいるような気分に浸れる景色が大きな魅力。客室内は、オーク材の落ち着いた色合いに、大和文化の華やぎを表現したデザインが彩りを添えます。
「スイート」「和室」「スタンダード」の3つのグレードから選択可能。タオルやナイトウェア、シャンプー・コンディショナーなどのアメニティにもこだわっています。
奈良ホテルの広い敷地内には、国の名勝に指定されている「旧大乗院庭園」もあります。
奈良ホテルに来たら、国の名勝「旧大乗院庭園」も散策したいところ。大乗院は、平安時代から江戸時代に栄えた門跡寺院(皇族・公家が住職を務める寺院)の一つです。明治新政府による仏教排斥運動「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」の影響で廃寺となるまでは、南都随一の名園と称えられており、将軍足利義政を始め公家たちがしばしば拝観に訪れたほど立派な庭園だったとされています。現在、その敷地内の一部が奈良ホテルとなっています。
一時は奈良ホテルのテニスコートやパターゴルフ場が設置されたこともありましたが、1994年から庭園全体の整備に着手し復元工事が始まり、2010年に一般公開されました。
また、「名勝 旧大乗院庭園」の一角にはかつての大乗院を復元した模型や、関係資料の展示を無料公開しているほか、茶室や有料会議室を備えた「名勝大乗院庭園文化館」もあります。
奈良ホテルは明治時代に建てられて以降、110年以上の歴史を経て、現在も変わらぬ姿で受け継がれています。時代や法律の変化に合わせて改修や工事は行われましたが、極力当時の姿がそのまま残され、デザインや意匠、調度品など館内のあちこちに明治時代を感じられる空間です。
奈良を訪れた際には、関西の迎賓館とも呼ばれた格式高いホテルに宿泊してみてはいかがでしょうか。また、宿泊しなくてもティーラウンジやレストランを利用でき、館内は自由に見学できます。
古都奈良で歴史と伝統を受け継ぐ奈良ホテル、一度は訪れたいスポットです。
所在地 |
奈良県奈良市高畑町1096 |
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電話番号 |
0742-26-3300(代表) |
公式サイトURL |
https://www.narahotel.co.jp/ |
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